清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

食市場にもAI&ARの波が

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2018年12月01日

食市場にもAI&ARの波が

 ロボットからクルマの自動走行、学習からゲームまで、AI(人口知能)やAR(拡張現実)はすさまじい勢いで、私たちの生活に溶け込み始めています。食市場においても、AIやARを活用した商品開発、販売促進が活発化しています。

表情から本心を読み取る「感情AI」

 モノが売れない時代と言われる中、感情を技術でくみ取る新しいマーケティングが広がりつつあります。
 凸版印刷とIT企業シーエーシーは「感情AI」を活用した商品開発や宣伝に取り組みます。これは、人の顔の僅かな表情を0.2秒で判定して「喜び」や「怒り」といった7つの感情を読み取り、それぞれに適した商品やサービスを届けようというものです。
 例えば、食品メーカーの試食会で、モニターが新商品を口に入れた瞬間の表情の微妙な変化を読み取らせます。食べた瞬間のデータを取ることで、食後に調査するよりリアルな反応が得られるといいます。
 また、動画マーケティングのコンサルティングや配信を手掛けるイギリスに拠点を置くアンルーリー社は、企業が流そうとする動画を500人のモニターに見せ、視聴中の表情の変化を調査。これと商品について聞いたアンケートを組み合わせ、動画のどのシーンでどういう感情がどれくらいの強さで生まれたかをグラフ化しています。
 例えばある日用品メーカーのCMでは、女優の不敵な発言が出た瞬間、20代は共感し、30代以上の女性は一斉に不快感を示しました。この場合、若い世代にターゲットを絞ったり、動画を編集し直したりして広告精度を高めることができます。
 今後、生活者の感情データの蓄積や分析が進めば、動画がどのような感情を抱かせそうか、どの程度の購入意欲を呼びそうか自動的に予測することも可能になります。

食事している女性

SNSの画像から商品の使われ方を解析

 SNSの画像から市場調査に役立つ情報を取り出すサービスも注目されています。エジソンエーアイが手掛ける、AIを使ったSNS画像解析サービスです。
 SNSの投稿画像から顧客企業の製品のロゴを基に製品が写っている画像を抽出。そこに写っている生活者の年代、性別、場所、シチュエーションまでを解析し、結果を顧客に提供します。顧客企業側は、このサービスから得られる情報を基に生活者の心に刺さる広告作りなどに繋げることできます。
 現在、食品メーカーや自動車メーカーなど数十社がこのサービスを活用しています。例えば、キリンビールが「47都道府県の一番搾り」の飲用傾向を調査した結果、「東京限定品」の画像の約10%が新幹線車内からの投稿で、出張を終えた会社員が多く飲用していることが分かりました。

スマホで料理の写真を撮っている様子

SNSの情報を分析して商品開発

 AIはすでに、商品開発に利用されています。
 ロッテは自社のオンラインショップで昨年12月、AIを使って開発したチョコレート菓子「トッポ<カラマンシー>」を数量限定で発売しました。韓国ロッテ製菓のAIチームが、韓国の食品関連サイトから約1,000万件の情報を収集して分析。それを基に、人気が出る可能性があるチョコレート向けの素材を導き出しました。それが、今回採用した、フィリピンなど東南アジアの代表的な柑橘類 ”カラマンシー” です。
 近年、生活者の好みは変わりやすくなり、流行の周期も短くなっています。ロッテは今後、日本の食品関連の情報も、AIで分析して商品開発に活かすことを検討しています。短時間で大量の情報分析ができるAIを活用することで、まだ顕在化しきれていない生活者の意識変化をいち早く掴みたいとしています。

トッポカラマンシー
画像引用元:PR TIMES ロッテ「トッポ カラマンシー」

AIで食生活を支援

 AIを利用した食生活支援サービスも登場しています。
 健康ベンチャー、ハカルスが提供するのは、AIが利用者の目的や好みに合わせた食事メニューやレシピを提案するサービスです。利用者が食事提案の希望を伝え、減量のためなのか健康のためなのか、自炊なのか外食なのかといった問いかけに答えていくと、管理栄養士が考えた約1,000種類のメニューからその人に合ったものをAIが選んでくれます。
 さらには、「飲みすぎちゃった」スタンプを押すと「アルコール分解のためサラダや柑橘系の野菜を食べよう」と返されるなど、さまざまなアドバイスが届きます。問いかけに答えていくだけで、利用者の好みや目的、生活スタイルなどを学習していくのが特徴で、提案した食べ物をなかなか食べない場合、AIが利用者の好みでないことを覚え、他のものを表示するようになったりもします。
 スポーツジムを運営するティップネスは12月、会員向けアプリにこのサービスを採用しました。また、同様のシステムは、味の素も開始しています
 さらに日立ソリューションズ・クリエイトは、AIを使って食卓に並んだ料理の栄養成分を一括で計算するシステムを開発しています。料理をカメラで撮影すれば、AIが画像中の品目を識別し、栄養成分ごとの合計値を出す仕組みで、1枚の写真で複数のメニューを一度に認識できるのが特徴です。今後、食べた分量を認識する技術も開発する予定です。

ハカルス ティップネス会員専用アプリTIP-TAP
画像引用元:PR TIMES ハカルス ティップネス会員専用アプリ「TIP-TAP」
ハカルス ティップネス会員専用アプリTIP-TAP
画像引用元:PR TIMES ハカルス ティップネス会員専用アプリ「TIP-TAP」

ARで我慢しないダイエット!?

 一方AR(拡張現実)は、ダイエットや健康を目的としたサービスにも利用されています。
 東京大学が開発中なのは、視覚と嗅覚によって味覚を変え、ダイエットに役立てようというAR装置です。開発したヘッドマウントディスプレーを装着すると、実際はプレーンタイプのクッキーなのにチョコレートがたっぷりとかかったクッキーに見えます。さらに、ひと口食べると装置のチューブからチョコレートの甘い香りが漂ってきて、まるで高カロリーのチョコクッキーを食べている感覚になるといいます。
 もうひとつのAR装置は、鏡のようなディスプレーで、そこに映る姿に手を加えることで食べた満足感を感じさせます。例えば、クッキーを食べる自分の姿を映すと、実際よりも大きく口が動いたり、頬が膨らんだりするため、実物よりも大きなクッキーを食べている気分が味わえます。
 まだ実用化には課題はありますが、これらを組み合わせれば、味気ないダイエット食を口にしながら、豪華な食事をしているかのような満足感を得られる日が来ることも、夢ではないかもしれません。

ヘッドマウントディスプレーを装着する女性とクッキーを食べている男性

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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