清田ダイアリー KIYOTA DIARY
【調理休活】と【プロパ志向】
食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気
2025年07月01日
毎年、「食市場のトレンド」を公表しているひめこカンパニー。今年挙げた38のキーワードの中で特に強調したいのは、【調理休活】と【プロパ志向】です。『2025年食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」』の中でも少し紹介しましたが、改めて詳しく、商品例も挙げてご説明したいと思います。
【調理休活】
“調理にも定年があっていいのでは” と、評論家の樋口恵子氏が数年前に提唱した「調理定年」。年を重ねたら、手作りはほどほどに。外食やテイクアウト、市販の惣菜などを上手に活用しながら必要な栄養を摂ればいいのではという考え方です。樋口氏の提案は、高齢者を対象にしていますが、調理疲れを感じるのは年齢・性別関係なく、すべての生活者にあることです。そこでひめこカンパニーでは、忙しい日が続きそうなとき、体力が落ちているなと感じたとき、調理が嫌で嫌でたまらなくなったとき、前向きに調理を休んでみる―。そんな積極的な逃避行動を【調理休活】と命名しました。
その意図を分かりやすく表現すると、「逃げ恥」です。「逃げ恥」は、元々はハンガリーのことわざ。 “問題と向き合わず逃げることは普通に考えると恥ずかしいことだが、逆にそれが最善の解決策になることがある” という意味。無理して身体に負担をかけたり、不機嫌に料理をしたりするよりも、スパッと休んで、自分時間、家族時間を満喫。調達した料理でおいしい時間を楽しみ、未体験の味と出会う。そんなチャンスになればいいね。そしてまたウチの味、私の料理に嬉々として戻っていけたらいいね。という提案です。

博報堂生活総合研究所は、 “定年=55~65歳くらい” というイメージを払拭するため、調理定年ではなく「調理寿命」と呼称し、料理をするのが気持ち的に面倒になり、作らなくなる「ココロの調理寿命」と、料理をするのが体力的につらくなり、作らなくなる「カラダの調理寿命」の2つについて調査しています。その結果、「ココロの調理寿命」の平均は、56歳5カ月、「カラダの調理寿命」の平均は、63歳1カ月となりました。「ココロとカラダの調理寿命」を過ぎても、「現実的調理寿命」はありません。ほとんどの生活者は、それ以降も調理をし続けているのです。
生活者は人生の中で、何回も【調理休活】をしたくなるときがありますが、そのピークは、子どもの食事の支度がマストではなくなったり、夫婦だけになったりする、50代後半から始まるのかもしれません。でも、調理を休んで生活を謳歌したくなる、日々のルーティーンな調理から逃げたくなることは、何度も言いますが、年齢・性別に関係ありません。そんな生活者に向けて、【調理休活】を応援するメニューや商品を提案してはいかがでしょうか。
外食市場においては、家族でも楽しめる “女性ターゲットのメニュー” 、ちょっとした料理のヒントや盛り付けのアイデアが盗める冷凍食品、簡単なひと手間で憧れのレストランの味が楽しめるミールキットなど、 “調理を休んでよかった” とポジティブにとらえることができる提案が求められています。

【プロパ志向】
そしてもうひとつ、ひめこカンパニーが提案したいのは、「プロパ(プロセスパフォーマンス)志向」です。1秒でも早く結果を求めるタイパ志向に疲れた生活者は、一方で、結果に至るまでの充実した時間を楽しみたいと願っています。この過程の満足度がプロパです。
例えば。やりたくないこと、つまらないことをやっている10分間。いい結果が得られればまだしも、そうでなければタイパは最悪と感じます。一方、やりたいことを楽しくやっている30分は、結果ではなくその過程に満足できます。時間の長さで判断するのではなく、プロセスに価値を求める。それが、【プロパ志向】です。
時間対効果の良し悪しは、消費した時間の充足感に大きく左右されます。時短を求めることと、じっくり時間をかけたいことの二極化が鮮明になっていて、中でもプロセスを楽しみたいという欲求は大きくなっています。プロセスを満足感のあるパフォーマンスに昇華できるか否かが、プロパの価値を決めます。ここからは、発売されている商品を例に、【プロパ志向】を分かりやすく説明いたします。

アレンジ可能。 “私が作った” の満足感
ほんのひと手間をかける調理市場の拡大を狙って発売されたのが、セブン‐イレブン・ジャパンの冷凍食品「セブンプレミアム クックイック」シリーズです。鍋やフライパンでひと手間かけて加熱調理するため、後ろめたさや味気なさを感じることなく、家族に出す際も “自分が作った料理” と納得できる一方、無駄な手間は徹底的に省いています。火にかけて仕上げるので、途中で好みの具材を追加したり、味を変化させたりすることも可能で、このカスタマイズ性がより多くの生活者を惹き付けます。
分量は1人前なので、個食化にも対応していますが、個食化対応の商品ではそのまま食べられるよう、容器にコストをかけますが、この商品は鍋に移すので容器は簡素化。その分のコストを食材や値ごろ感に振り分けるという戦略に出ています。

1人中華を、コスパよくチャチャっと
エバラ食品工業が2月に発売したポーション容器入りの「プチッと中華」。ポイントは、 “1個で1人分の中華調味料” という点。人数に合わせて中華料理を手軽に作ることができます。
自社調査で浮かび上がった、「家族が揃ったときにしか作れない」「少量作るのが難しい」「もっと気軽に作りたい」といった中華料理の悩みや課題に対応しています。中華惣菜の調味料は、2人分のものはありますが、1人分となると冷凍食品や惣菜に頼るしかなく。好みの野菜や肉を使って1人分をチャチャっと作りたい生活者にぴったりですし、割安感もあります。

作り方いろいろ。 “試してみたい” の楽しさ
ハウス食品が2月に発売した新シリーズ「おかづまみの逸品」は、鶏肉や卵、豆腐など家庭で常備しやすい材料を使って、 “おかず” にも “つまみ” にもなる逸品料理を自宅で簡単に楽しめます。物価高で家飲み需要が高まっている中、 “おかずとつまみを両方作るのは面倒” という声に着目し、酒を飲まない家族には “おかず” 、晩酌する家族には “つまみ” となる “おかづまみ” を提案。お酒にもご飯にも合う風味を探究したとのことです。
そのまま炒める、電子レンジで加熱してから炒める、材料を合わせて電子レンジにかけるなど、いろいろな作り方で展開しているのが特徴。特に「ふんわり卵焼き」では、巻くのが難しい卵焼きを電子レンジで簡単に作れるようにしたいと考え、失敗を重ねながら “中心まで固まってもパサパサにならない” 技術を開発(特許申請済)。耐熱容器に同品と卵を溶かしてそのままレンジで加熱するだけで、ふんわりとした卵焼きができ上がります。
シリーズ化する調味料を開発する場合、作り方を揃えることが多いのですが、敢えていろいろな作り方で展開することでプロセスが楽しめますし、1度試してみて満足できれば、別の作り方の商品も試してみたくなります。プロパ志向の商品で重要なことは、絶対に失敗させないこと、そして必ずおいしくでき上がることです。

食事の支度のお悩み解決
生活者の悩みを多面的に解決してくれるプロパ商品が、理研ビタミンが3月に発売した、下味冷凍用おかずの素「パッとジュッと」です。同社の調査で、共働きで子育てをする世帯の間で「疲れたとき・忙しいときのメニュー決めや下ごしらえの手間を省きたい」「まとめ買いや節約食材を有効活用したい」といった声が上がりました。そこで、20~40代の共働き子育て世帯をターゲットに、①比較的安価だけど、パサつきがちな鶏ムネ肉がジューシーに焼ける②時間があるときに、下味をつけて冷凍保存がしておける③使うときは、解凍せずに直接フライパンで加熱ができる、この商品を開発しました。特許技術を使った “肉ピタソース” が肉汁の流出を防ぐため、肉の水分を逃さずに軟らかく焼けるといいます。
食事の支度で負担に感じることの1位は、 “献立を考えること” 。安いときにまとめ買いした肉を小分けにして冷凍する生活者は多いと思いますが、使うときにどんな料理にするのかを考えなくてはならず、場合によっては解凍の手間がかかります。しかも料理はワンパターンになりがち。この商品は、それらの悩みをすべて解決してくれます。

付加価値の高い
食品・製品を開発します
清田産業では、メニュー、レシピ、調理方法、試作など、ご提案から開発までワンストップで対応します。豊富な経験と研究開発実績から、付加価値の高い製品開発を実現します。
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この記事を書いた方
この記事を書いた方
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子
加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。
http://himeko.co.jp/