清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

三不粘(サンプーチャン)

シンプルを極めた中国の伝統デザート

太木光一
食品評論家 太木光一

2022年10月31日

三不粘(サンプーチャン)

数ある中華料理のなかで、とりわけ難しいとされるデザートの「三不粘」。その難しさと手間隙から現在でも食べられる店が限られている。今回は三不粘の魅力に迫る。

 三不粘とは中国語でサンプーチャンと読み、本場中国でも幻の料理と呼ばれるデザートである。この名前の意味は「三つつかず」で、三不粘が歯に粘りつかない、箸につかない、皿につかないことが名前の由来である。原材料は卵黄・砂糖・でんぷん・ラードと極めて単純であるが、大変な技術を必要とする難易度の高い一品である。

三不粘の一流店「同和居飯荘」

中華料理

 この三不粘が食べられるのは北京で200年近くの歴史を誇る一流店「同和居飯荘」。清の時代には、福興居、万興居、同興居、東興居、広和居、同和居、砂鍋居、万福居と並び、八大居と称された北京の名店の一つである。

 同和居は山東料理の名店としてよく知られ、三不粘以外にも数多くの有名美菜を揃える。海鮮だけでも300を超えるメニューを持ち、常に新しい名菜が誕生し続けている。その味は北京料理の特徴である清鮮脆嫩(チンシェンツィネン)、つまり清(さっぱり)、鮮(持ち味を生かした)、脆(さっくり軽い)、嫩(しっとり柔らかい)とした味で高い評価を得ている。国内のみならず、日本天皇をはじめ日本の朋友、欧州の賓客、海外の僑胞などからも絶賛される名店である。

 1993年にはライバルとして著名であった広和居を全料理師ぐるみで買収し、一層の充実を推進した。これによって名声は一段と高まり、味わった人は一人残らず絶賛を惜しまない名店となった。

 そんな名店で作られる三不粘は、宮廷料理の多くが山東料理の名厨によって作られ、隔絶した味を誇っていることからも、甘いお菓子のような料理であれども中国料理の中でも風格が高い料理だといえる。そして、三不粘の名声をさらに高める要因として、皿に盛られた外観の美しさ、純粋な香り、続けて食べても飽きることのない素晴らしい味がある。また、清朝以来、同和居の三不粘に及ぶものが出来ないと言われるほど、作るのが非常に困難なことからも超一流の料理と呼べよう。

三不粘の作り方

原材料

・卵黄 5個
・砂糖 150g
・片栗粉 50g
・水 150g
・ラード 60g

作り方

  1. 卵黄をボールに入れ、砂糖と片栗粉に水少々を加えよく混ぜる。
  2. さらに水150gを加えてよく混ぜる。
  3. ラードを鍋に入れ、強火で熱し、まわりを油でぬらすようにして油を溶かし、別の容器に移しておく。
  4. 鍋に油を少々残すようにして2を加え、かき混ぜながら2分ほど火を通したら、先ほどの溶かした油をたらしながら混ぜて火を弱めていく。油っぽく仕上げないことがポイントである。
  5. これを深目の皿に盛り、さじを添えて各人それぞれ小皿に盛って箸で食べる。

作り方のポイント

卵を泡立て器で混ぜるところ

 材料として入手しやすいものばかりであるがコツがわからないため、北京でも作れる料理人がわずかしかいない。

 配合と温度と作る時の攪拌、この三つのポイントがピシャリと決まらないと三不粘は完成しない。中華鍋で約10分間、ラードを少しずつ加えながら400回くらい攪拌すると滑らかさが生まれてくる。また火加減も大切で、火が強すぎるとすぐに焦げ、弱いと固まらず香りが飛んでしまう。

 まさに名人芸の生きているデザートと呼べよう。

三不粘が量産できない理由

 三不粘の原材料や作り方はよく知られているが、名厨によってのみ作られていることから、決して簡単なものではない。先で述べたように三不粘とは作る時にこの3点が決まらないと出来ない。

・配合
・温度
・よく攪拌する

 手軽なようであるが、特殊な技術を必要とするため、その調理はなかなか難しく、量産も出来ない。

三不粘の今後とまとめ

 三不粘に対する需要と人気が拡大する中も、生産性は極めて低く、能率は上がらない。また量産体制を研究する気運もまったく見られない。料理は時代に合わせて変わってゆくものであるが、流行を追わず、守るべきものをしっかり守ることが大切であることを教えている。

 多くのメーカーは自分の力を知らず、ひたすらに拡大を求め続ける。また、少し売れるとすぐに量産に走る場面が多くみられる。これは要反省である。

この記事を書いた方

太木光一

この記事を書いた方

食品評論家太木光一

1947年早稲田大学商学部卒業。同年昭和産業に入社し、一貫して調査業務に携わる。調査部長を経て1979年に退社するが、在社当時から食品と食品産業について新聞・雑誌に健筆をふるい、食品産業評論家として活躍する。通産省中小企業振興事業団の需要動向委員のほか多くの政府委員を歴任するとともに食品メーカー、問屋、高級食料・食品店の顧問にも就いていた。海外視察は280回以上に上る。主な著書は「日本の食品工業」(共著)、「新・一般食品入門」、「惣菜食品の強化技術」、「食材の基礎知識」など多数。