清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

培養細胞による食品

食にかかわるアメリカの業界情報

吉田隆夫
JTCインターナショナル社長 吉田隆夫

2021年03月01日

培養細胞による食品

 最近のアメリカの食品産業はコロナのパンデミックで家庭での食品の消費が主となり、安心して食べられる食品やいつも慣れ親しんでいる食品の消費が増えている。一方、将来の食品として盛んに投資がされているのは、植物性肉代替え製品やその他の植物性食品、さらに培養細胞からの食品の開発である。この10数年間には医学の領域において細胞科学、再生医療科学それに関する生物化学、生理科学など周辺科学が進み、そうした進歩は食品業界へも影響を与え始めている。この数年間に食品を培養細胞から作るベンチャー企業が世界で立ちあげられて、製品化への開発競争が激しく行われている。今回はアメリカのこうした企業が現在どのような開発をしているのかを紹介してみることにする。

培養肉の誕生

 培養細胞から肉を作ることは2000年始めに再生医療の技術を使うことにより肉が作れることが研究で示されていた。オランダのマーストリヒト大学のマークポスト教授が2013年に初めて実際のハンバーガーのパテを研究室で作り出し、大きなニュースとなった。これが刺激となり、培養細胞肉の生産を目指した研究を行うベンチャー企業を多く設立させ、競争を激しくしている。マーク・ポスト教授の研究はMosa Meatという会社の設立で商業化を目指している。

培養肉に取り組む会社

 ここでは培養肉の商用化に取り組む代表的な会社を紹介する。

Memphis Meats社(現 UPSIDE Foods)

 アメリカでは2015年に心臓医と細胞科学者が培養細胞による肉の生産を目的にMemphis Meats社が設立された(2021年5月に「UPSIDE Foods」に社名変更:詳細URL<https://upsidefoods.com/whats-in-a-name/>)。この会社にはマイクロソフトの創始者のひとりビル・ゲイツ氏や航空業界の事業者チャールスブランソン氏が1,400万ドルを投資して注目を集めた。

現 UPSIDE foods社のアヒル肉タコス
写真1

 2016年に世界初めてのミートボール、2017年には鶏肉(写真1)、アヒル肉を作り出している。Memphis Meat社(現 UPSIDE foods)は2020年1月にはさらに1億6,100万ドルの資金を集め、生産工場を建設し商業的な生産を1年半から2年後に始める計画である。

New Age Meats社

 2017年に設立されたNew Age Meats社は培養細胞肉と植物性たんぱくや植物成分と混ぜ合わせることによってハイブリッドの肉製品を作ることを研究している。この会社は今まで500万ドルの資金を得て研究をしている。

Mission Burn社

 Mission Burn社は2018年にカリフォルニア州バークレーに設立された会社で、ベーコンと動物脂肪を作り出すことに成功しており、量産化の方法も開発しており、来年には市場で販売できるとみている。ベーコンは普通豚から作られるので、ユダヤ教ではコーシャーの認可は得られないが、この細胞から作ったベーコンはコーシャーになる可能性があるとしている。

JUST社

 JUST社はカリフォルニア州ハンプトン・クリークにある会社で、最初はマヨネーズの卵を植物性のたんぱくを使って出した会社で、現在では牛肉、豚肉、鶏肉の培養細胞肉を生産することができるという。2020年の12月にはシンガポールで初めて細胞からの鶏肉を販売する認可を受けて、ナゲッツとしてレストランで販売を開始した。世界ではこれが初めての細胞培養から作られた肉製品の販売となる。

水産物の培養肉研究

Blue Nalu社のヒラマサノヒレ肉のソテー
写真2

 水産物でも細胞から作る会社ができている。カリフォルニア州エメリービルにあるFinless Foodsは細胞培養で魚や貝類を生産することを研究しており2017年9月には初めて魚の肉を作り出して試食をしている。この会社はスペース・ステーションでも宇宙で魚を作ることができるかどうかの実験を行っている。サンディエゴにあるBlue Nalu社も水産物を培養細胞から作ろうとしている会社で、2019年にはブリ科のヒラマサのヒレ肉を作り、種々のメニュー(写真2)にして試食会(写真3)を開いている。

Blue Nalu社の試食会
写真3

 これによってさらに投資を得ており、創設以来8,500万ドルの資金を得、昨年にはパイロット工場の建設を始めている。

 こうした培養細胞からのたんぱく源食品の開発は世界で進んでおり、アメリカとヨーロッパだけでなく、イスラエルとシンガポールで非常に研究開発が盛んである。両国にはそれぞれ数社が開発を進めており、イスラエルではすでにパイロット工場の横にレストランを置き、製品の試食をするところまであり、近く政府も認可する可能性が高い。

培養肉の将来への期待度

 こうした培養細胞からの肉製品の製造が将来の肉製品として期待されているのは、こうした技術で作られる肉は、現在の畜産で必要とされている土地、水、飼料などの使用が非常に少なくて済み、環境に非常にやさしい食料生産であり、製品は清潔な工場で作られるために、現在の肉産業で大きな問題である食中毒菌の心配をしなくて済むという大きな利益がある。さらに将来危惧されている世界の人口増加による食料不足に大きな寄与ができると考えられているからである。

最後に

 現在アメリカではFDAと農務省がこうした肉製品の安全性の確保のための法的手続きや、作られた製品の呼び方などをどうするかを検討しており、2021年には何らかの商業化に向けた動きがあるとみられている。ちなみに上に書かれているようにシンガポール政府は商業化の認可をしている。

 このようにアメリカでは培養細胞からのたんぱく源の生産を目指した研究開発が急速に進んでいる。もちろん、消費者の培養細胞からの肉製品への考えが市場で受け入れられるかどうかで販売が左右するが、こうしたベンチャー会社や投資家はこの技術の将来に大きな夢を描いている。

この記事を書いた方

吉田隆夫

この記事を書いた方

JTCインターナショナル社長吉田隆夫

アメリカのフロリダ大学の分子進化研究所で2年間研究、さらにシラキュース大学で後にノーベル賞受賞された根岸英一先生の教室で2年間有機金属化学を研究し、IFF社の研究所で約11年間香料の研究。その後、カーリンフード社(後にブンゲ社)に5年勤務、独立して食品産業のコンサルタントを30年以上続けている。アメリカ食品産業研究会、e-食安全研究会、クリエイティブ食品開発技術者協会を設立し、その活動をしている。

http://www.e-syoku-anzen.com/

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