清田ダイアリー KIYOTA DIARY
中国の宮廷甜点心
中国の宮廷料理にみる甜点心(スイーツ)
2023年03月13日
中国の宮廷料理は豪華絢爛である。メニューをみれば300種を超える。製法は精細・色彩美観・軟娕(ナンナ・柔らかいこと)・栄養豊富を前提として、色・香・味・形・器の五美がすべて揃っている事が条件であった。
これと比べて宮廷の甜点心(甘味のある点心=菓子類)は菜(料理)と比べて大分遅れをとっている。
10種類の甜点心
筆者の知る限りで、宮廷食譜にみる甜点心は以下の僅か10種類である。
- 豌豆黄
- 芸豆巻
- 小窩頭
- 開花饅頭
- 金糸巻
- 木犀糕
- 肉末焼餅
- 棗糖糕
- 小包酥盒
- 千層糕
肉末焼餅を除けば、何れも一ロサイズの小型点心である。食後の名品と呼ぶにふさわしい味わいであるが、この中で碗豆黄・芸豆巻・小窩頭・開花饅頭・肉末焼餅の5品は宮廷の台所「御膳房」の厨師による創作ではない。開発のヒントもバラバラである。
ちなみに現在において、この宮廷料理を食べられる場所は北京の北海公園に位置する仿膳飯荘のみである。風光明媚で清朝時代の建物が並び北海湖を眺めまさに別天地で料理と点心を楽しむことが出来る。
甜点心にみる4つのエピソード
豌豆黄(ワンドウホアン)

タテ2センチ・ヨコ3センチ・高さ2センチほどで一口の大きさである。えんどう豆のようかんとでもよべよう。日本のようかんほど甘くなく、スッキリとした上品な味わい。
原料
・えんどう豆(豌豆黄)...一斤(一斤は500g)
・白糖…7兩5銭
・塩…3分
・水…3斤
芸豆巻

小豆の餡をいんげん豆の生地でロール状に巻いた菓子。幅1センチ程の大きさに切る。大きさが一口大で食べやすい。雪のような外側とあんの色のバランスが良く、美観である。
原料
・白芸豆(白いんげん豆)…一斤
・豆沙(小豆餡)…一斤
・塩…少々のみ
この豌豆黄と芸豆巻は仿膳の自慢の甜点心であるが、そのルーツは御膳房の外にあった。
ある日、慈禧太后(西太后)が静かに御苑内で涼をとっている時、突然に物売りの大声がひびいた。何事かと尋ねると豌豆黄と芸豆巻とよぶ甜点心を売る呼び込みとのこと。献上されたそれらを試食した慈禧太后がその味に感動し、そのまま売り子を宮中に留めることとしたという。こうして庶民の味が宮廷料理へと昇格したのである。
ともに一口大の大きさで上品な甘さと外観に優れ、豌豆黄は甜香爽口、風味大。芸豆巻は香甜涼爽、非常適口。雪白的皮、色調美観と表現されている。
小窩頭(シャオウォトウ)

トウモロコシの粉を原料とし、大豆粉と白糖・桂花・ソーダなどを副原料とする。小さな菓子で食べやすい。外観は金黄色であり、味は香甜である。直径1.5センチ、高さ約2センチの小型。
小窩頭の誕生のきっかけは、義和団の乱にある。1900年に8か国の連合軍が北京に攻め込み、慈禧太后はやむなく西安に避難した。この途中で食べた「窩窩頭」という大きな蒸し物のおいしさが忘れられず、難を逃れて北京へ戻った後、宮廷料理人に作るよう命じたとされる。
元は貧しい庶民の食べ物であった窩窩頭を、御膳房が趣向を凝らし小型で上品な宮廷の甜点心「小窩頭」へと生まれ変わらせた。
以上の3品は甜香爽口で仿膳を代表する名菓とよばれている。
肉末焼餅(ロウモーシャオビン)

前述した3品は何れも小型で保存性は大きいが、この肉末焼餅はやや大きい。直径でみれば約5センチほど。こんがりと焼き上がった平たい饅頭状で上に白ゴマがバラバラとふりかけてある。
食べ方として、饅頭状の焼餅から中身を取り出し空洞にし、味をつけた肉末を包み込む。焼き上がった外側のパン状の焼餅と味つけをして挿入した肉末が絶妙のバランスとなる。こちらも慈禧太后の大好物とされる。
なお、慈禧太后はこの肉末焼餅の製作者の趙永寿になんと二十兩(現在の100万円以上)の賞金を与えたと言われる。
その他の仿膳の甜心部で製作されたアイテム
木犀糕
桂花(もくせいの花)・鶏卵・砂糖・料理酒・小麦粉でつくりあげたカステラで、長さ八寸、幅一寸、高さ一寸2分に切る。この表面に波状の飾りをつける。食べる時に長さ八寸、幅一寸、高さ一寸五分に切り、まさに一口大のカステラ様となる。
金糸巻
仿膳の製菓係の制作による。小麦粉に砂糖・卵の細切り・ハムの細切りを加えて、棒状にこねて、蒸し上げたもの。ハムと鶏卵がからみ合って金糸のように見えるから名付けられた物。
仿膳ではさらに甜点心の領域を広める努力を続けている。
仿膳製作の月餅

中国の人々が好む行事菓子として月餅が有名である。角型は茅台酒入り、丸型は蓮の実・ナツメ・胡桃入りである。仿膳製作の月餅は、非常に美味であるが、残念ながら限定販売のため売り切れる恐れがある。日本では手に入らないのが残念である。
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この記事を書いた方
この記事を書いた方
食品評論家太木光一
1947年早稲田大学商学部卒業。同年昭和産業に入社し、一貫して調査業務に携わる。調査部長を経て1979年に退社するが、在社当時から食品と食品産業について新聞・雑誌に健筆をふるい、食品産業評論家として活躍する。通産省中小企業振興事業団の需要動向委員のほか多くの政府委員を歴任するとともに食品メーカー、問屋、高級食料・食品店の顧問にも就いていた。海外視察は280回以上に上る。主な著書は「日本の食品工業」(共著)、「新・一般食品入門」、「惣菜食品の強化技術」、「食材の基礎知識」など多数。