清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

記憶に残る植物(1)

マメ科ダイズ(その1)

飯沼宗和
岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授 飯沼宗和

2009年02月01日

記憶に残る植物(1)

 大豆は食べるだけでなく、植物としても私たちの生活に古くから関係があります。今回から3回に分けて、大豆にまつわるお話を紹介します。

私たちの生活と大豆

 元日の朝の焚き付けはマメガラ(大豆の枯れ枝や莢(さや))と決まっていました。乾燥したマメガラは燃え易く更に火力も強く、電(かまど)を使って料理をしていた時代には焚き付けとして最高の材料でした。ごく一般的には、松の落ち葉が用いられていました。今日のようにガスや電気を熱源に使い、コック一つで点火や火加減、熱調節ができる時代とは大違いです。

大豆にまつわる諺

大豆の豆殻

 「豆を煮るにマメガラを焚く」という諺があります。本来、大豆と莢は同じ栄養を吸収し、共に成長してきました。収穫この折には大豆と莢は別々にされてしまいます。やがて穀物としての大豆は釜の中で煮られ、薪としてのマメガラは釜の下で焚かれます。同じ根で育ちながら、煮られると煮るとでは立場が逆になってしまいます。

 ルーツが同じ兄弟や仲間同士が傷つけあうことのたとえで、中国の故事からきています。節分に鰯の頭を刺して母屋、蔵、納屋などの入口に飾る場合にもマメガラの茎を削って用いたものです。「12がき」と称し、薪の白い切り口に消し炭で横に12本の線を引き、鯛の頭をかざした入り口の両側に立て掛けました。

 残念ながら、これらのしきたりについての知識は、物心つく以前のことですので、記憶が曖昧で絶対的なものでもなく、広い地域の風習なのかはわかりません。

枝豆

 莢がみどりで未熟のうちに収穫して枝豆にすることはありますが、黄色から茶色に色づいた莢に入った完熟大豆を収穫する光景やそれを乾燥していることを日本ではあまり見かけなくなりました。田圃の畔道に1m間隔に棒で穴をあけ、2〜3粒の大豆の種をいれて栽培している風景も見られなくなりました。一枚の田圃の畔は長く、小さな大豆畑にも匹敵しそうな面積です。その当時、味噌を仕込むための大豆を各家庭が準備しなければならない時代でした。

バクテリアの力

 ノマメを原型として発達した大豆は既に縄文時代にわが国に伝播されたと推定されています。なぜ、マメ科植物は世界の隅々まで分布し、そしてできるのか。緯度の低い熱帯から、緯度の高い亜寒帯まで。雨の多いところから砂漠近くの雨の少ないところまで。そして低地から亜高山地帯まで。

さまざまな種類の豆

 一つには、マメ科植物の花の構造にあります。どのような場合にでも、受粉が可能で多くの種子が結実します。そして、確実に伝播され春になると発芽します。

 第二には、根粒バクテリアを使って、窒素固定ができることです。ヨーロッパの土地には根粒菌がないため大豆は育たなかったと言われています。根粒バクテリアが土中や空中から窒素を集めて、大豆に肥料を提供します。替わりに大豆は光合成で得た炭水化物をバクテリアに供します。痩せた土地でもマメ科植物が育つ理由です。目には見えませんが、地中で繰り広げる植物と微生物の共生です。

 第三にマメ科植物は他の菌に抵抗できるような成分を活発に合成する能力があります。専門的にはファイトアレキシン(植物の生産する抗菌物質)を巧みに合成し、利用しています。根粒バクテリアは引き寄せながら、害をおよぼす微生物は、このファイトアレキシンを使って活動を食い止め、組織が破壊されるのを防御して生命体を守ります。

 ファイトアレキシンは微生物に活性を示しますが、有害な紫外線を吸収したり、活性酸素を消去できる能力も併せて持っています。限られた環境の中で、他の植物に比べて優位な立場で生きているのがマメ科植物と言えます。

大豆の持つタンパク質

 主食にまでは至っていませんが、植物性タンパク質含量が36%と高い穀物で、世界的に健康志向の高まる中、「ミラクルフード」として脚光を浴びています。欧米では大豆油を得るほか、主として飼料に用いられています。東洋人、特にわが国では、味噌、醤油、豆腐、油揚げ、凍み(高野)豆腐、納豆、湯葉などを加工し、また枝豆、煮豆、きなこなどの副食品として日本人は食生活に多様な形でダイズを取り込んでいます。

大豆の可能性

大豆を使ったさまざまな加工食品とその料理

 「大豆で大変身新聞」の記事が面白かったので抜粋します。

大豆から芽が出て、もやしもやしから茎が伸びて、枝豆。枝豆が大きくなって大豆。大豆を搾ると油。大豆を炒ると節分の豆。その豆を挽くときな粉。大豆を煮て発酵させると味噌、醤油、また納豆。大豆を煮て砕いて搾るとおからと豆乳豆乳を温めると湯葉、固めると豆腐。豆腐を凍らせると凍(こお)り豆腐、焼くと焼き豆腐、油で揚げると厚揚げ、油揚げ。云々・・。

大豆で大変身新聞

 ダイズを原型にした上述の納豆ですが、テンペ(インドネシア)や臭豆腐(しゅうどうふ)(中国、台湾)など発酵食品も数多く知られています。高野豆腐は凍(し)み豆腐あるいは凍り豆腐ともいわれますが、凍みている中で凍結乾燥するため、前者が意味深い呼び方だと思います。

この記事を書いた方

飯沼宗和

この記事を書いた方

岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授飯沼宗和

1947年松本市生まれ。薬学博士。1974年岐阜薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。1980年薬学博士取得(岐阜薬科大学)。1974年岐阜薬科大学助手、2002年教授となり、39年間にわたり専門の生薬学を中心に教育研究に携わる。1998年から4年間岐阜県に出向し、保健環境研究所所長を歴任。研究分野は民族伝承薬物の科学的根拠に基づく医薬品、健康食品、化粧品の研究開発。

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