清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

食品中に含まれる化学物質の意義とその誤解3

コロナ対策の成否は食生活改善に似ている?

長村洋一
一般社団法人日本食品安全協会理事長 長村洋一

2020年09月01日

食品中に含まれる化学物質の意義とその誤解3

 コロナウイルスが世界中で流行し始めてから約3年。各国により対策方法が違い、その結果は感染者数となって現れている。それは食と健康にも同じことが言えるのではないかと考えた。
 同じ食べ物でも食べ方を変えれば健康が変わる、今回はそんなコロナ対策からみる食と健康について解説する。

はじめに

マスクをつけて歩く人々

 中国武漢から新型コロナウイルス騒ぎが始まった当初はまさかと思っていたが、クルーズ船の問題が具体化してきた頃からあっという間に世界中がパンデミック状態となった。今回の新型コロナウイルスは感染しても無症状または軽症者が多くいる一方で、感染によって重症化し、亡くなる方もしばしば発生するので扱いが非常に困難を極めている。

 政府は経済政策に優先して国民の世帯当たり2枚の布製マスクを配布します、それも布製マスクですから何度も洗って使えます、と宣言し実行に移した。国策として500億円もの大金を使用し、まず行うべき政策であると判断した政府のとった政策としては、国民を真に守るための危機管理としていかがなものか、と私は大きな疑問を持った。

 しかし、マスク着用の効果についてはひょっとすると、とんでもなく大きな効果があるのかもしれない、と考えている。ちょうど日本がクルーズ船で騒いでいた頃、ドイツのハンブルグ大学のSteinhmt教授から私のところに心配をしてくれるメールが届いた。その頃はドイツではまだ患者が出ていなかった。

 そして、間もなくイタリアで新型コロナウイルスの大流行が発生し、その余波的にドイツも瞬く間に感染者が増加し、感染者数は日本をはるかに越えてしまった。

 なぜ後発的な欧米で感染者数が増加する中で、日本の増加速度が遅いのか? という疑問に対し、私はマスクの効果かもしれない、と考えたい経験がある。30年以上前の話ではあるが、私はドイツ(当時西ドイツ)のデュッセルドルフ大学糖尿病研究所で3年余を過ごした。当時、喉が少しいがらっぽい時にマスクでもかけようものなら、周りが大変な騒ぎになることであった。

 マスクをかけることが、実は私は皆さんに病原菌をまき散らす可能性があります、というサインと捉えられたからである。実際に通常のマスクの着用効果は感染者の飛沫飛散防止に役立つことに意味があるが、ドイツでは冬に街中でマスクを着用した人など見かけることはなかった。

 イタリアなどで流行が始まった初期の頃の中継映像では、街中の人びとのマスク姿は非常に少なかった。そんな画像を見ながら、ドイツと同じだな、と感ずる一方で、今回の新型コロナは感染しても軽症ないしは無症状の人が多いことを考え合わせると、日本人の感染者が少ない大きな理由の一つがマスク着用に抵抗がない国民性だと思うようになった。こんなことを考えているときに山中伸弥先生のホームページに興味ある記事を発見した 。

山中伸弥先生が提唱されるファクターX

注射を打つところ

 コロナの拡大に憂慮されているノーベル賞受賞者の山中先生は「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」というホームページを立ち上げられ、コロナに関する的確な情報伝達を行っておられる。iPS細胞を開発されたときからの医学によって人の命を救うために傾けられた情熱をそのまま人類の直面した脅威との対決に向けられている感じのするホームページである。

 ここに紹介されている論文や専門家のご意見は、テレビのワイドショーで取り上げられている番組を見るよりもはるかにしっかりとした情報を得ることができる。特に山中先生が必読と勧めておられる慶慈大学の古川先生の「Significant Scientific Evidences about COVID‐19」は圧巻である。

 この表題は英語であるが全部日本語で書かれており、非常に多くの最新情報を得ることができる。山中先生のホームページからアクセスできるので是非ご一読をお勧めする。

 このホームページには「解決すべき課題」という部署があってそこに「アジア・オセアニアのファクターX」と題してアジア・オセアニア地区の住民の死亡率が欧米に比較して極端に低いことが示されている。そしてそれは人種の違いはあまり強く影響していないことがデータで示されている。

 山中先生自身も「人種による死者数の割合を全米とカリフォルニア州で比べると、アジア系住民の人口当たりの死亡者数が白人と比べて低い傾向にはありません。ファターXは、人種による遺伝子の違いよりも、他の要素がより重要なのかもしれません。」と言っておられる。

複数の因子からなるファクターX

 私自身非常にこのファクターXに興味が引かれるのは山中先生が言っておられる「遺伝子の違いよりも、ほかの要素が重要なのかもしれません。」という言葉である。すなわち、遺伝子よりも何らかの環境的要因が大きくかかわっている可能性がある、というご指摘である。

 実はこの現象は「食と健康」を考えるときにも非常に大きな問題なのである。すなわち同じ遺伝子を持っていても食環境が変化すると最終的にはまるで異なった健康状態を引き起こす。

山中先生はこのXはひょっとすると、次のような要因ではないかと複数の因子を挙げておられる。

・クラスター対策班や保健所職員等による献身的なクラスター対策
・マラソンなど大規模イベント休止、休校要請により国民が早期(2月後半)から危機感を共有
・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識
・ハグや握手、大声での会話などが少ない生活文化
・日本人の遺伝的要因
・BCG接種など、何らかの公衆衛生政策の影響
・2020年1月までの、何らかのウイルス感染の影響
・ウイルスの遺伝子変異の影響

 ここに挙げられた事項の多くは、すでにその効果があると言われている事項である。しかし、これさえやっておけば大丈夫という事項は一つもない。ここが食品の機能とよく似ている。すなわち、これさえ食べれば良いという食品はなくて、どの一つも栄養バランスの構成員である。どの栄養素も欠けてはいけないし、一つの栄養素だけたくさん摂っても意味がない。

 そして、大人、子供、高齢者、運動をする人、病気である人などによって要求される栄養バランスは異なっている。

 そしてこのXが「食と健康」問題に良く似ている部分は、例えばある食生活で糖尿病にならなかった人がいるとしたとき、糖尿病になってしまった人がその食生活に変えたからと言って糖尿病の治療としては使えない、ことである。

 すなわちコロナに感染してしまった人に「ファクターX」を実行させても直すことはできないようなことである。言い換えれば、感染していない人が実行することにより感染が防げるが、感染してしまった人が実行しても治療という観点からはあまり意味を持たない。

新しい科学的手法の必要性?

漢方薬

 この考え方からすると、ファクターXはあるウイルスに対抗するための生活習慣と社会環境が総合的に有効に働いていると考えられる。したがってこれが唯一の決定的因子だと証明できる因子は見つからない可能性がある。

 しかし現象をよく観察すると、アジア・オセアニア地区の住民の死亡率が欧米に比較して極端に低い事実は歴然として存在しているから、何かがあるのも確かである。

 話は変わるが、漢方薬は生薬として全体を摂取すると確かに効果があるが、その成分を分析してゆくと効果の決定的因子が発見できないことが多い。なぜなら、漢方はエキスとして摂取させるのが基本であるからである。

 漢方医療における再現性が少ない成果を見るたびに、東洋医学としての漢方の研究方法に今一つ新しい手法が要求されていると私は考えている。

さいごに

 実はその延長線上にあるもっと大きな問題が「食と健康」である。食と健康問題には口に入る食品成分のみではなく、食べるという環境が構成する精神的要素も大きく関係している。

 こうした健康に及ぼすある事項の総合的な効果を検証する大きな学問体系を、紅を使用することにより確立できるのではないかと考えると同時に、総合的な対応が大切である「食養生」と似ているコロナ対策の困難性を併せて考えている。

この記事を書いた方

長村洋一

この記事を書いた方

一般社団法人日本食品安全協会理事長長村洋一

藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)において臨床検査技師教育を平成17年まで行い、その後鈴鹿医療科学大学の副学長を令和3年まで務めた。その間に食の健康に関する様々な問題に取り組み、正しい食の安全・安心情報が伝わる社会の実現を目指し日本食品安全協会を立ち上げ健康食品管理士/食の安全管理士の育成を行っている。

http://www.ffcci.jp/

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