清田ダイアリー KIYOTA DIARY
無添加表示の流れは変わるか
食品添加物不使用表示ガイドライン検討会の途中経過
2021年09月01日
一昨年4月から昨年2月まで9回にわたり開催された食品添加物表示に関する検討会を小生は毎回傍聴のため東京まで出かけ、パイプ椅子に座ってメモを取りながら一生懸命聞いた。そしてこの検討会で大きく問題となった無添加表示の問題について本年3月から新たなガイドライン作成に向けての検討会を開催した。
はじめに
この検討会はすべてオンラインで開催されているので自分のパソコンで全部拝聴できる。そのため東京へ出かけることなく、その時間帯だけ自分の机の前に座っておればよく、途中でコーヒーを飲みながら、机上でメモをとって聞いた。
このオンラインによる手段は、検討会に限らず、学会のシンポジウム、会議そして依頼された講演等では現地に赴かなくてもほぼ目的が達成できるという点では本当に素晴らしいと感じている。これは若干皮肉でもあるが、コロナ禍が生んだ良い落とし子と言ってもよいかもしれない。
この検討会は第1回が3月4日に開催され、本年度末にガイドラインの作成・公表、関連するQ&Aの改定がなされる予定で進行することになっている。構成している委員11名は消費者団体、業界そして有識者からなり、ヒアリング対象とされた業界及び消費者団体の代表者8名も無添加表示排除に対して賛否両方の立場の方々がちりばめられている。
検討会の流れは第1回から3回では、食品添加物の不使用表示に関する議論の振り返り、検討の進め方について、関係者ヒアリング(消費者、事業者等)となっており、第4回以降は、ヒアリング、調査結果を踏まえた検討、ガイドライン取りまとめに向けた検討、パブリックコメントの実施及びガイドライン案への反映となっている。
そしてガイドライン策定により期待される効果としては、既存の公正競争規約の改正(統一化?)、新規策定・広告等の指導、本ガイドラインを参考とした景品表示法の適用により、消費者の誤認につながる不使用表示の縮減を掲げている。7月21日にこの第3回が終了し、議事録も全部公開されているのでこの3回までを総括させていただく。
誤認に対する認識のずれ
3回の検討会を通して何回も出てきた言葉の一つが「誤認」であった。例えばある消費者団体の方は「食品添加物は、健康を害するのではないかという間違った知識がベースにあるから、健康でありたいと願っている消費者は、無添加・不使用と書かれた食品をつい求めてしまうのです。
このように、無添加や不使用表示がある限り、消費者の誤認はなくならないことを明確に示していると考えております」という発言をしておられ、別な事業者は「添加物に対して消費者は多くの不安を持っていることは事実でございます。それを誤認という言葉で片付けてよいのでしょうか。」と発言しておられる。
この両者の言い分は、添加物が入っていることが健康に影響あると考えているかどうかの認識のずれによる。そうした議論の中で「無添加という表示の食品を購入したい」という消費者がいる以上、その人の選択の権利を保障するために不使用表示を行うべき、というのが後者の論点である。
かつて「放射能ゼロの食品を目指しています」と宣伝して福島の食品の風評被害を煽られた大手スーパーから出ておられる委員は、この意見に対し同調をして見えた。しかし例えば保存料は食品の安全のために用いられる添加物でかつ国が安全と認めている物質であるから、添加しなかったら現行の制度では記載しなければ良いだけである。それをわざわざ「無添加または不使用」と表示する必要ない、と小生は考えている。
日本食品添加物協会の上田委員が「『無=安全』という認識の広がりが、リスクの大小が量に依存するというリスク評価の基本的な考え方の社会への定着・普及を妨げ、国民の命や健康に関係する諸問題の合理的な解決の障害にもつながっていると考えております。無添加又は不使用表示がリスクコミュニケーションを妨げているものと考えます。」と主張しておられるが全くその通りである。
拍手を送りたいセブン‐イレブンの方向転換
第2回と3回は消費者団体と業界および業界から出られておられる委員からのヒアリングが中心であった。それぞれの団体または企業からは大体予想していたような内容のプレゼンであったが、意外だったのは第3回のセブン-イレブンジャパンの斉藤委員の発言であった。
ここは添加物の神様と自称されていた阿部司氏が一世を風摩されていた15年位前には、阿部氏に煽られた顧客を対象にしているのか、と疑いたくなるくらい非常に多くの商品に無添加を訴求していることを声高に宣伝していた。その後も少しも改まることなく、その姿勢を貫いておられた。
そんな企業から「保存料、合成着色料不使用ということを、セブン-イレブンが声高に言っているのが影響しているのではないかといわれているのですけれども、原則として、この訴求については、もうやめました。やめて表示及びテレビCM等の媒体を用いて、殊更に食品添加物の不使用について訴求することを取りやめています。」との発言があり、ワインと辛子明太子、たらこに関してはその業界の縛りの関係もあってやめてはいないが、従来の20%しかそうした表示は行っていない、とのことであった。
こうした大手がこのような姿勢になられたということに対し小生は大きな拍手を送りたい。「ヤマザキパンはなぜかびないか」と非科学的な理論で批判されても、消費者の無知に基づく「不安心」に楯ぴることなく、またイーストフード不使用表示問題においても添加を貫いているヤマザキパンの姿勢は賢い消費者に確実に認められていることを小生は知っている。セブン-イレブンさんにはこの姿勢を今後もさらに進めて頂くことを期待している。
食品添加物の安全性を意識して進めて欲しい今後の議論
「食品添加物危ない、無添加がおいしい」と考えている消費者が一定数いる前提に立って、その人たちの「感覚」を傷付けずにどうすべきかを考慮してガイドラインの結論が出される危険性を3回の検討会を通して感じている。
これは、第2回の検討会で市川委員(食のコミュニケーション円卓会議)が「このガイドラインの検討をしていただく中で、ガイドラインが、線引きのメルクマールになってしまい、不使用と堂々と表示できること」を懸念しておられが、「公正競争規約・業界基準」をベースに多くの業界が方向転換を図ることになってはこの検討会の出すガイドラインはみじめなものになる。
ところが、全国味噌工業協同組合連合会、全国清涼飲料連合会のヒアリングおよび武石委員(食品産業センター)が提出された日本洋酒酒造組合の意見書などの発言を聞いているとそれぞれの業界がいかに努力して添加物を使わない製造をしているかがひしひしと伝わってくる。この業界の努力を無下に「駄目だ」というのは忍びない感を逃れないのは確かであるので小生の危倶は現実味を帯びている。
一昨年の食品添加物表示制度検討会では全国スーパーマーケット協会の大熊委員から「味噌における無添加の意味はダシを加えずに伝統的な手法のみで作られた味噌に許されている事項である。
従って味噌の無添加は消費者の商品選択に当たっての情報提供のためであって誤認をさせるためのものではない。」との発言があったので、その後種々の機会にこの味噌の定義を知っているか多くの周りの人たちや学生に尋ねてみた。
少なくとも小生が質問をした誰一人正しく理解している人はいなかった。いないどころか「私は無添加と書いてある味噌よりも何も書いてない味噌の方がおいしい、と思っていたけどそういうことなのね。」と妙な納得をされた方が数名いる。小生も今まで「伝統、手作り、余分なものを使用しない本来の味」と言った形容詞の食品が、普通の食品よりもまずいと感じたことが何度かある。
料理には「隠し味」という言葉があり、実際に美味しいといわれる職人技の料理にはそうした隠し味が秘められている。同じように甘味料の添加物を少し加えることによって甘いケーキやジュースを作成できれば、立派な低カロリーの製品と考えられる。
その添加物は国が厳密な審査をして安全性を保障しているので、添加することによる健康被害は考える必要がないどころか、血糖値に問題のある人やカロリーを控えなくてはならぬ人に勧められる食品である。
さいごに
上田委員が第2回の検討会の最後の方で「技術開発をした成果のアピールとして不使用表示をしているということを何人かの方がおっしゃったのですけれども、私は、『そんなにすばらしい技術であればその技術そのものをアピールするのが本来の姿ではないか』と思っている」と発言された。
私も全く同感で、食品は安全でおいしいことが一番大切である。その観点から料理の隠し味のように使用する安全な食品添加物の研究開発をもっと促進し、新時代のおいしくて安全な食品を供給できる社会を作ることがまさに企業努力として行われるSDGsにもつながる事項である、と考えている。
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この記事を書いた方
この記事を書いた方
一般社団法人日本食品安全協会理事長長村洋一
藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)において臨床検査技師教育を平成17年まで行い、その後鈴鹿医療科学大学の副学長を令和3年まで務めた。その間に食の健康に関する様々な問題に取り組み、正しい食の安全・安心情報が伝わる社会の実現を目指し日本食品安全協会を立ち上げ健康食品管理士/食の安全管理士の育成を行っている。
http://www.ffcci.jp/