清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

記憶に残る植物(5)

ウリ科植物(その2)

飯沼宗和
岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授 飯沼宗和

2009年08月01日

記憶に残る植物(5)

 夏には料亭や旅館の吸い物にトウガンがよく用いられます。トウガンには味やにおいの癖はなくダシとよく合います。半透明の果肉が透き通り、軟らかい舌感に独特な高級感を与えます。煮物や漬物に使われるユウガオは、トウガンとは別属のウリ科植物です。ユウガオはヒョウタンやフクベと同じ仲間の植物で、何れも花が白色であることが特徴です。源氏物語の「タ顔」は、ユウガオの蔓が伸びた塀に囲まれたところに住んでいて、花の寿命の様に薄命ともいえるところに物悲しさを覚えます。

カンピョウ

 現実的な話に戻りますが、信州ではユウガオは円筒形のものが一般的ですが、栃木では丸ユウガオが主流です。果肉からカンピョウ(干瓢)が作られます。未熟果は煮物に使われます。

ユウガオ

 個人的な嗜好ですが、トウガンより確かな味と優れた食感がユウガオにはあります。信州ではお盆前後がユウガオの最盛期で、カンピョウ作りが各家庭で始まります。今は昔。冬の長い信州で、ご馳走となるのり巻きの芯や五目ご飯の具に用いる材料を、夏の暑い時に作って蓄えておきます。

 出来上がったカンピョウは、元のユウガオからは想像ができない位絶妙な味に仕上がります。シイタケ、油揚げ、ゴボウなどとカンピョウは相性がよく、広い用途で使えます。今では食料品売り場に売られていますが、自家製のものとは一味も二味も違います。自家製のカンピョウは漂白剤や保存料など一切使っていません。市販のものは、後述するように、そのまま口にすると強烈に酸味があり、用い方に注意が必要です。

かんぴょうの煮物

家庭でのカンピョウの作り方

 ユウガオの外皮を皮引きで剥き去り、3cm位に輪切りにします。

 それを各家庭特製のカンピョウ用まな板(厚手の木製まな板の上に、2本の竹製のレール<幅1.5cm、長さ20cm、厚さ3mm>が間隔3.3cmに竹釘で固定されている)を用いて、厚さ3mm程に剥いていきます。果肉の内側の柔らかい「わた」の部分はカンピョウにはなりませんので、「わた」に包丁が到達すると終わりです。

ユウガオの皮を剥いたもの

 50cm位のユウガオ一本で、おおよそ16本の生カンピョウができる計算です。

 経験が浅く不器用な場合、途中で包丁が走り過ぎて切れてしまいます。左手で輪切りのユウガオを回転させる速度と包丁を動かす右手が一致して、長い生カンピョウができ上がります。

 それを物干し竿に並べて干して、乾燥させます。早い時期に裏表をひっくり返し、物干し竿に付着することを防ぎます。カンピョウを作る時ほど、夏の太陽の光が強く長く続くことを嬉しいと思ったことはありません。乾燥が不十分ですと、カビが生え丹精込めて作ったものがカンピョウでなくなってしまうからです。

かんぴょうの天日干し

 数日お天気が続きますと、立派なカンピョウが出来上がります。

カンピョウのわた

 カンピョウ作りの折に出た「わた」には別の利用方法があります。わたを集めて、その中の種子を丹念に出します。半透明となったわたを味噌汁の具や煮物に使うのです。何とも舌触りがよく美味しい味噌汁や煮物が楽しめます。腹に貯まった砂を出す作用があるとも聞いています。

 何かの折に、栃木県のユウガオ生産者に電話で話しをする機会がありました。話はカンピョウ作りにも及びました。カンピョウ作りの「わた」について質問すると、廃棄処分にしているとのことです。

 自家用のカンピョウ作りでは、その「わた」も美味しくいただける程度の量ですが、商業的に加工する場合、量的に多すぎて家庭レベルでは利用できずに処分するそうです。近所の住民も、無料で「わた」を提供しようとしても使わないそうです。結構日持ちが悪く、腐り易い「わた」を産業廃棄物として処分してしまうとは、ユウガオ愛好者の一人として美味なだけに極めて残念です。

そのほかのカンピョウ料理「夕顔のてっか」

 地方名の料理の呼び方ですが、「てっか」という独特な料理法がありますが、ご存知の方は少ないと思います。野菜を油で炒め、砂糖と味噌で味付けをします。味噌炒めのことがてっかです。「ナスのてっか」や「ユウガオのてっか」があります。このユウガオの「てっか」も絶品中の絶品で、小学生の頃を思い出させる故郷の味のひとつです。

カンピョウの思い出

 何年か前、市販のカンピョウを買ってきて料理に使ったとき、鉱酸(注)の味が強烈で口にできなかったことを思い出しました。製造元に問い合わせたところ、漂白のために使った酸が残っていたそうです。料理する前には、水でよく洗い、塩で揉んで十分水洗いし、更に大量の水で茹でてからといった注意書きがありました。

かんぴょうを煮ているところ

 「三つ子の魂百まで」という諺があるように、子供の頃覚えたユウガオに寄せる思いは年々募っていきます。お盆に田舎に帰省し、ユウガオを親威からもらって帰り、カンピョウ作りから始まり、「わた」料理、そして「てっか」と、見よう見まねで覚えたユウガオの味を堪能しようと試みています。

 現在の専門的な研究と併進させながら、カンピョウには機能性食品にまで展開できそうな有効成分が入っていないかと欲目に思う昨今です。

(注)鉱酸…塩酸、硫酸、硝酸など強酸性の無機酸

この記事を書いた方

飯沼宗和

この記事を書いた方

岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授飯沼宗和

1947年松本市生まれ。薬学博士。1974年岐阜薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。1980年薬学博士取得(岐阜薬科大学)。1974年岐阜薬科大学助手、2002年教授となり、39年間にわたり専門の生薬学を中心に教育研究に携わる。1998年から4年間岐阜県に出向し、保健環境研究所所長を歴任。研究分野は民族伝承薬物の科学的根拠に基づく医薬品、健康食品、化粧品の研究開発。

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