清田ダイアリー KIYOTA DIARY
にがい味の話(その2)
強い苦味は健康に効果的?! 薬の味が苦い訳
2008年07月01日
前回、苦味から感じる表現を話しましたが、今回はその苦味がもたらす効能について話します。古くから私たちの祖先は苦味が刺激となり、健康にも働くと考えていました。このような原始的な治療が現代にまで渡って人類を繋いできてくれたと思うと、苦味の凄さを感じずにはいられません。
季節を感じる苦味
旬の食材、早春の山菜(フキノトウ、コシアブラ、タカノツメ等)や秋の味覚キノコ(クロカワ、サクラシメジ等)には苦味を呈するものが種々あります。苦味はヒトや草食動物にとって好ましくない味、食べたがらない味で、摂食忌避的作用があるのでしょう。
植物側からは、苦味物質を生産し蓄積することによって食べられることから難を逃れ、防御しているのかも知れません。成長し、やがては分化して花を咲かせ、一方では実を結び、他方では胞子を貯えるための基礎的な組織、言い換えれば種の保存に適合する組織を生物学的、化学的に防御する術が備わっています。
また、他の目的で生産した生態化学物質(二次代謝産物ともいいます)が、偶然ヒトには苦味と感ずる化合物なのかも知れません。何れにしても、新芽やキノコには苦味やえぐみがあり、料理する際には、水に晒らしたり、灰汁(アク)ぬきしなければ口に入りません。
苦味を持つ様々な植物
既に述べましたニガウリ(ツルレイシ)は苦味を持つ数少ない野菜の代表ですが、薬用には苦味を持つ植物が数多く知られています。オウバク(ミカン科)、オウレン(キンポウゲ科)、センブリ(リンドウ科)、アロエ(ユリ科)等、何れも苦味を呈します。サフラン(ユリ科)の柱頭にも苦味があります。植物ではありませんが、動物生薬の熊胆(ゆうたん)<クマの胆汁の乾燥物>にも爽快な苦味があります。
苦味がもたらす、薬としての効能
随分昔、真否の程は定かではありませんが熊胆と称して、竹の皮に包まれたものが配置販売され、各家庭で常備薬として桐の箱の中に保存していたことを思い出します。中身は確か黒色であり、大切に扱った記憶があります。苦味をもつ生薬は一般的に健胃薬が多いようです。
含まれている成分はオウバクとオウレン(アルカロイド)、センブリ、リンドウとゲンチアナ(セコイリドイド配糖体)は共通の苦味物質を含有していますが、オウバク、センブリ、アロエはそれぞれ異なった成分です。
ヒトは構造的に異なった物質を何故か、共通して苦味と感じる場合があります。健胃剤を服用し、武器として防衛したと錯覚し、暴飲暴食することが日常的に行われますが、本末転倒です。
中老年で食欲も多少衰え、胃腸の働きが低下しているにもかかわらず、若い方と対等に食べたり飲んだりするのに、胃腸薬を飲んで立ち向かおうとするのは長く続きません。最高の胃腸薬は腹八分目の食事です。大切な自分の身体を化学反応器のように見立て、胃腸薬を触媒と考えることもなぜか納得できません。
海外での苦味の使われ方
フィジーの南太平洋大学で共同研究の話があり、スバ市を訪れる機会がありました。ホテルの冷蔵庫にはキニーネ入りの水が”tonic water”と称して、ビールと共に売られていました。試す気にはなれませんでしたが、帰国後、極く低濃度で苦味剤としてレモン飲料水等に使われていることを知りました。
元来、キニーネ(アルカロイド:残留性苦味)はキナノキ(アカネ科:コーヒーの木と同じ仲間)の樹皮から得られ、抗マラリア薬として使われてきました。
苦味から探す、新たな薬
6大熱帯熱病(マラリア、トリパノソーマ、リューシュマニア、住血吸虫、フィラリア、ハンセン氏病)の一つマラリア。ハマダラカが原虫を媒介する感染症です。アフリカ、東南アジア、中南米で、現在でも毎年200万以上の人がマラリアで尊い命を落としています。
キニーネの発見またはキニーネ類似医薬品の開発がマラリアを治療する恩恵をもたらしたことは事実です。しかし、昆虫のハマダラカが殺虫剤に抵抗性を持ったことに加え、マラリア原虫も既存の医薬品に耐性を示しつつあります。
更に、地球温暖化(ハマダラカ生息地の拡大)や国際化(ハマダラカ自身や感染者の容易で速やかな移動)の問題は、日本にとっても決して対岸の火事ではあり得ません。十数年前に熱帯熱マラリアの研究プロジェクトチームが結成されました。
治療薬を開発すべくこのチームに参画し、世界各地の伝承薬物を収集し、有効な植物を見出すべく研究を続けました。伝統的にマラリア治療に用いられ、世界中から集めた植物を舌でその味をチェックしました。幾つかの植物には苦味がありました。
キナノキと類似の苦味を以ってマラリア治療に使ったのか、偶然に苦味があったのかが疑問でした。全ての植物について抽出液を調製して、抗マラリア活性を検討した結果、残念ながら特筆できる活性が認められませんでした。
マラリア(三日熱、四日熱、卵形マラリア)のうち、特に熱帯熱マラリアに対しての予防、治療薬を開発することが望まれています。日本で熱帯熱マラリアが流行することを、「杞憂*」とみるか、「備えあれば、憂い無し」とみるか、その現状分析が問われています。
*杞憂(きゆう)
あれこれ無用の心配をすること。[昔、中国で杞の国の人が、天が落ちてくるのではと心配した故事による]
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この記事を書いた方
この記事を書いた方
岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授飯沼宗和
1947年松本市生まれ。薬学博士。1974年岐阜薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。1980年薬学博士取得(岐阜薬科大学)。1974年岐阜薬科大学助手、2002年教授となり、39年間にわたり専門の生薬学を中心に教育研究に携わる。1998年から4年間岐阜県に出向し、保健環境研究所所長を歴任。研究分野は民族伝承薬物の科学的根拠に基づく医薬品、健康食品、化粧品の研究開発。