清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

食品中に含まれる化学物質の意義とその誤解1

一人歩きはやがて国民を誤らす「無添加」という言葉?

長村洋一
一般社団法人日本食品安全協会理事長 長村洋一

2019年12月01日

食品中に含まれる化学物質の意義とその誤解1

 私たちは健康でありたいという思いから、「体に取り入れるものはできるだけいいものにしよう」と当たり前のように食品表示の情報を鵜呑みにしている。しかし、中には誤解を招く表示があり、今回は「無添加」という言葉に着目した。

はじめに

 私は古文における「やがて」は「直ぐに」を意味し、古典英語において「soon」も「直ぐに」を意味するこの共通性に興味がある。その理由は、おそらく洋の東西を問わず昔の人が「直ぐに」または「soon」と言っても実際の時間はそれより遅く「間もなく」であったから、「やがて」も「soon」も「間もなく」になったと解釈されていて、ここには人間の習性が感じられるからである。

 言葉というのはその時代の人たちの多くの人が共通認識できれば、その意味になってゆく、ということは明確である。その例として「やばい」の意味は「危険または不都合な様子」を言うが、今や若者を中心として「すごい、最高の」といった意味でつかわれており、日常的にこの意味が定着し始めている。

食品添加物表示制度検討会で問題とされたこと

コンビニ食品を買うところ

 言葉は独り歩きをしてやがて本来とは異なった意味を持ってくる、という観点から私が放置を危惧する言葉として「無添加」がある。現在消費者庁で行われている食品添加物表示制度検討会でも第5回は無添加表示が論点とされた。

 その資料の中に日本食品添加物協会の上田委員が出された資料に、現在流通している明らかに考え直すべき次のような無添加表示例が上げられている。

(1)対象が不明確な場合の無添加・不使用表示
(2)消費者が「他の食品添加物を使用していない」、「食品添加物の量が少ない」と誤認する表示
(3)食品添加物の安全性に疑義を抱かせる表示
(4)一般に食品添加物〇〇が使用されない、又は消費者がその使用を予期していない食品への「〇〇無添加」、「〇〇不使用」表示
(5)〇〇の使用が法令で認められていない食品に対する「○○無添加」、「〇〇不使用」表示
(6)同一機能の食品添加物が使用されている場合における「〇〇無添加」、「○○不使用」表示
(8)当該食品添加物と同一成分を含む代替原材料を使用している場合の「〇〇無添加」、「〇〇不使用」表示
(9)製造工程全てにおいて食品添加物が使用されていないことが確認されていない場合における「食品添加物不使用」、「○○無添加」、「○○不使用」表示
(10)安全確保のための表示である消費期限、賞味期限、保存方法と誤認するおそれのある表示
(11)法令の主旨に合致しない用語を用いた無添加・不使用表示

 この資料が紹介された第5回の検討会を私も傍聴させていただいたが、消費者庁は第1回の検討会の時に消費者アンケートの結果として無添加と表示されているものは「安全で健康に良さそうなため、美味しそうであるため、合成や人工という表示があると購入を避けてしまうため」と感じ取っていることを資料として出している。

ダシが入っていない味噌を「無添加」の驚き

味噌

 第5回の検討会の際に委員の一人から「味噌には無添加の表示が多いが、あの無添加の意味はダシを加えずに伝統的な手法のみで作られた味噌に許されている事項である。従って味噌の無添加は消費者の商品選択に当たっての情報提供のためであって安全を装う誤認させるためのものではない」との発言がなされた。

 何人かの委員から「味噌の無添加がこの委員の発言のような意味であることを知らなかった」とやや驚きを持っての意見が幾つか出された。中には、ダシが入っているものは「ダシ入り味噌」と書けばわかるし、一般には「無添加」と言えば何となく健康に良さそうとの誤解を招いている、といった意見も出された。

 私もこの味噌に多い無添加表示がダシの入っていない味噌だということを初めて知った。そこでこの考えがどれくらい一般市民の知るところかということを早速調べてみた。この検討会の翌日から参加した第66回日本生薬学会に参加していた32人の参加者、私の大学の教職員28名および私の家族関係者6人に尋ねたところ、一人もダシ入りでない味噌を無添加と表示すると知っていた人はいなかった。

 この調査の結果、私は少なくとも一般市民の非常に多くが、無添加味噌と表示された味噌をみて、「ダシの入ってない味噌だ」ではなく「何となく健康に良さそう」と受け取っていると判断している。

 上田委員の資料にあるような表示を行っている業者の多くは「本当はこんな無添加は意味がない、しかしこう表示すると売れるから」ということで表示している業者が多いことを知っている。

 特にしっかりしたメーカーの多くの方から明確に「無添加表示は消費者が求めるから」 とお話になる。すなわち「無添加」という言葉が「安全で健康に良さそう」という単語として独り歩きを始めていると私は考えている。

「無添加 = 安全」思想の普及は国民のリスク管理意識を低下させる

 最近あるメーカーの防虫剤に「無添加防虫剤」という防虫剤を見つけた。そのホームページに入ってゆくと、ある30代の女性タレントが「子供を持ってから安心の無添加を選ぶようになった」というようなことを言っていた。これなどもまさに「無添加」という言葉が暗示させる効果を狙ったものとしか考えられない。

 私は食品添加物に関していえば平成7年を境として安全性に関しては非常にしっかりとした制度として運用されていると感じている。化学物質の安全性確保に関して世界中が叡智を絞って取り組んできた。

 そんな中で医薬品よりはるかに毒性が低く、ADIをベースに使用量が毒性の出ない領域で規制されている食品添加物の安全性は、21世紀の5分の1が過ぎようとしている今日においてほぼ確立されたと考えてよい。安全性が確保されているならば適切な添加物の使用はより豊かな食生活確保のために有用手段であることは確かである。

 そんな時代に入ろうとしているときに「無添加」であることが安全を意味することは日本国民全体の化学物質に関するリスク管理意識を低くするのではと非常におおきな危惧を抱いている。

この記事を書いた方

長村洋一

この記事を書いた方

一般社団法人日本食品安全協会理事長長村洋一

藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)において臨床検査技師教育を平成17年まで行い、その後鈴鹿医療科学大学の副学長を令和3年まで務めた。その間に食の健康に関する様々な問題に取り組み、正しい食の安全・安心情報が伝わる社会の実現を目指し日本食品安全協会を立ち上げ健康食品管理士/食の安全管理士の育成を行っている。

http://www.ffcci.jp/