清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

深化するノンアルコール市場

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2020年05月01日

深化するノンアルコール市場

 拡がるヘルシー志向の高まりを背景に、今、世界中でノンアルコール(以下ノンアル)飲料に対するニーズが高まっています。日本においては、軽減税率の対象であること、酒税改正によって新ジャンルの価格が上がることも追い風になっています。機能性を付加した商品も増えていますし、ノンアル飲料専門のバーも登場しています。
 飲料の代替品としての利用ではなく、味わいが好きだからという理由が大きく、おいしさが購買意欲を高めています。

機能性もウリに

 昨年のノンアル飲料の市場規模は2265万ケースと、この10年で4倍以上になったようです。最近は、ノンアルというだけでなく、機能性まで付加された商品が開発されていて、ヘルシー感と味わいがウケて流行っています。
 内臓脂肪を減らすと謳うのは、サントリービールが昨年7月に発売した「からだを想うオールフリー」と、キリンビールが10月に売り出した「キリン カラダFREE」。食後の血中中性脂肪の上昇を抑える機能があるとアピールするのは、サントリースピリッツのチューハイテイスト「のんある気分 DRY・ジンテイスト」、お腹の調子を整える機能があるのは、アサヒビールが12月に発売した「ヨーグルトサワーテイスト」。いずれも予想販売量を超える売れ行きです。
 さらに、日本で初めてのプロテイン入りノンアルビールも登場しています。Muscle Deliの「JOYBRAU(ジョイブロイ)」です。1缶(330ml)で21gのタンパク質が摂取できるのが特徴で、筋肉の成長に不可欠な必須アミノ酸BCAA、脂肪燃焼に効果的なLカルニチンとベータアラミンも配合されています。ノンアルなのでアルコールによる筋肉分解の心配もなく、ダイエットやボディメイクをしている人でも安心して飲めます。運動後にも飲みやすいすっきりとした味わいでビールらしい苦みもあります。

プロテインビール Muscle Deli「JOYBRAU」
画像引用元:PR TIMES Muscle Deli「JOYBRAU」
プロテインビール Muscle Deli「JOYBRAU」
画像引用元:PR TIMES Muscle Deli「JOYBRAU」

”代替品” から ”嗜好品” へ

 サントリーホールディングスの調査によると、ノンアルビールを1年前より飲む量が増えた理由について、「おいしくなったから」「休肝日をつくろう、または増やそうと思ったから」が多く、一方で「車を運転する機会が増えたから」は少なかったそうで、運転などのやむを得ない事情というよりも、ノンアルビールそのもののおいしさや、健康を気遣うなどの理由から飲用量が増えているようです。
 実際、「松屋銀座店」では、嗜好品として味を楽しむために ”本格的なノンアル” を求めるお客様の声に応え、品揃えを拡充しています。また高級ノンアルも人気で、フランス発のノンアルスパークリングワイン ”1688 グラン・ロゼ” (750ml、4212円)は2012年の販売開始以来、売り上げが25倍に急増しています。

世界で拡がるノンアル市場

 世界的ヘルシー志向の高まりを背景に、イギリスのディアジオやフランスのペルノ・リカールなど世界の酒類大手がノンアルに注力しています。またビールメーカーでは、オランダのハイネケンが、ノンアルビールの販売先を2年前の3倍以上に増やし、現在は50を超える国や地域で展開しています。アルコール離れは、ウォッカの国ロシアでも進み、ビール大手バルチカでは、2018年のノンアルビール販売量が前年比で38%伸びています。
 こうした現象の背景には、若者のアルコール離れや消費スタイルの変化があります。イギリスの調査会社が昨年2月に発表した報告書によると、イギリスでは若者の65%がアルコールの摂取を減らしていると回答。アメリカでも50%、スペインでは90%を超えています。一方、アメリカとイギリスでは6~7割以上が「ノンアルなどを飲むことをまだ考えていない」と答えていて、市場開拓の余地は大きいと見られます。
 世界のノンアルビールの市場規模は、2019年には、約1兆4200億円。年率6~11%伸びていて、年率2~6%の伸びにとどまる酒類総市場に比べても、成長率はかなり大きいと言えます。

ノーという白人

ノンアル専門のバーも出現

 ノンアルを求める生活者の増加に伴い、最近、とにかくおいしい、凝ったノンアルを提供するおしゃれな店が増えています。
 実店舗は持たず、さまざまな場所を間借りしてノンアル飲料のみを販売するバー「Bar Straw」の展開が始まっていて、渋谷パルコの店舗には、女子高校生が来店してノンアル飲料を楽しんでいます。
 同じく東京・渋谷には、お酒を飲む人も飲めない人も楽しめる、新しいノンアル飲料作りを目指すノンアル専門店「のん」がオープンしています。すべて手作りで実験的な新ノンアル飲料を開発していて、看板メニューは、店内で蒸留する ”特製ノンアルコールジン” 。30種類以上のボタニカルや果物が使われていて、本物のジンのような深い味わいだといいます。
 また3月には東京駅八重洲口側に、ノンアルの本格的なバー「Low-Non-Bar」がオープンしました。これまで本格的なバーを6店舗展開してきたオーナーの技術や知識を土台にした斬新なノンアルカクテルを提供しています。

ツドイ「Bar Straw」
画像引用元:PR TIMES ツドイ「Bar Straw」

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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