清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

巣ごもり生活で高まる健康リスクと対策食

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2021年11月01日

巣ごもり生活で高まる健康リスクと対策食

中年層にも忍び寄る ”フレイル”

 2020年4月に「日本人の食事摂取基準」に追加された「フレイル予防」。フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のことを指します。この間に、適切な治療や予防を行うことで要介護状態に進まずにすむ可能性があり、政府は、寝たきりにならないよう、早め早めの対策を勧めています。本来は高齢者が対象ですが、新型コロナウイルス下で巣ごもり生活が続いたことで、筋力が衰えたと痛感する生活者や、コミュニケーション不足から記憶力低下を心配する生活者が増え、積極的にフレイル対策をする人が、高齢者だけでなく、若年層から中年層にも広がっています。

課題は運動不足と座り過ぎ

 40代以降、何もしなければ、筋肉は1年で約1%ずつ落ちていくそうです。在宅勤務で極端に活動量が落ちた状態が続けば、筋肉量の減少はさらに加速します。専門家は、30、40代の人でも、巣ごもり生活が5年続けば、60、70代のような筋力になる可能性もあると指摘します。
 会社に通勤していれば、信号が変わりそうになって走ったり、駅で階段を駆け足で上ったりと、筋肉に負荷がかかる場面もありますが、室内ではほとんどありません。加えて、「座り過ぎ」も問題で、オフィスなら、呼ばれて席を立ったりコピーを取ったりして立ち上がる機会も多いのですが、在宅では座る時間が増える一方です。

 座っている間は太ももやふくらはぎは動かず、代謝や血流が悪化します。その結果、腰痛や肩こりなどの不具合はもちろん、肥満や糖尿病、高血圧、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞などの死亡リスクが高まること、メンタルヘルスの悪化とも関係があることが分かっています。

”若年フレイル” 対策商品が続々登場

  ”とりあえずタンパク質摂取” と考える人が多いのか、コロナ後、粉末プロテイン市場は成長し続けています。今後、タンパク質やカルシウム含有食品、高栄養バランス食品などフレイル予防に効果的な商品が、想定以上に広いターゲットに受け入れられるものと考えられます。
 実際、筋力の衰えを心配する40代以上を対象にした商品が、昨年来、相次いで発売されています。

 雪印メグミルクは、3月、日本初となる ”骨密度を高める” 機能性表示食品「MBPドリンク100g」を発売。骨・関節・筋肉サポート市場のさらなる伸長を目指しています。一方、森永乳業も同月、カルシウムを牛乳の2倍配合し、体脂肪を減らす成分 ”ローズヒップ由来ティリロサイド” を配合した機能性表示食品「PREMiL Red」を発売しました。

森永乳業「PREMiL Red」
画像引用元:PR TIMES 森永乳業「PREMiL Red」

 アサヒグループ食品からは、筋肉量及び筋力を維持するのに役立つ機能性表示食品「CREATINE+(クレアチンプラス)」が上市されています。筋肉量及び筋力の維持に役立つ機能がある ”クレアチンモノハイドレート” が含まれていて、適度な運動と併用することで、加齢によって衰える筋肉を作る力を助けるといいます。外出自粛によって ”運動不足を感じるようになった” ”筋肉・筋力が落ちた” と感じている女性をターゲットにしています。

アサヒグループ食品「CREATINE+」
画像引用元:PR TIMES アサヒグループ食品「CREATINE+」 

 この種のロングセラー商品と言えば、明治の「メイバランス」です。昨年の販売額は過去最高でした。本来は、食が細くなった高齢者の栄養補給のために開発された商品ですが、この商品が数年前、大学生にとても売れたことがありました。理由は、大学生が抱える漠然とした健康不安です。食生活がいい加減になりがちで、栄養が足りていないと感じている大学生が、とりあえずこれを飲んでおけば安心とばかり、買い求めたのです。

明治「明治メイバランスMiniカップミルクテイストシリーズ」
画像引用元:PR TIMES 明治「明治メイバランスMiniカップミルクテイストシリーズ」

 「若年フレイル」を実感している中年層は確実に増えています。フレイル向け商品は、ターゲットの間口を広げ、アプローチの仕方を変更し、コミュニケーションを見直す。或いは、開発コンセプトに若年フレイル対策的発想を付加するなど、新しい切り口も狙える分野だと考えます。

脳疲労がもたらす記憶力低下と睡眠トラブル

 在宅勤務で不調が生じるのは身体だけではありません。オンライン中心の生活は、脳の疲れも蓄積させていきます。脳疲労は、記憶力の低下や睡眠トラブルの要因になり、実際にコロナ下で症状を訴える人が増えています。
 特に、40代以上で記憶力や血圧を気にする人が増えていることから、コカ・コーラシステムが2月に発売したのが、日本初となる、記憶力と血圧の両方に働くGABAを配合した機能性表示飲料「からだおだやか茶W」です。記憶力への効果が、40〜50代の女性に特に魅力的に映っているようで、売り上げは上々です。

コカ・コーラシステム「からだおだやか茶W」
画像引用元:PR TIMES コカ・コーラシステム「からだおだやか茶W」

 一方、コロナ流行の前後で睡眠の変化について聞いた調査では、コロナ後、眠りの深さが ”浅くなった” 寝起きの熟眠感が ”悪くなった” という回答が多く、特に、リモートワークをしている人にその傾向が顕著でした。さらに、コロナに対して不安があるという人や、仕事量が変化したという人に、睡眠の質が低下する傾向が見られたといいます。

 そんな生活者が求めているのが、睡眠を向上させてくれるグッズや食品です。かねてから、サプリメントはありましたが、最近は機能性表示食品や飲料が発売され、コロナを機に、「睡眠改善食」はより身近になっています。

 ロッテは昨年9月、機能性表示食品「マイニチケア おやすみタブレット」を発売しました。睡眠の質を向上する機能が報告されている ”L-テアニン” を配合した、噛んで食べるタブレットで、甘味料にはキシリトールを使っていてノンシュガーのため、寝る前でも虫歯の心配なく食べられます。

ロッテ「マイニチケア おやすみタブレット」
画像引用元:PR TIMES ロッテ「マイニチケア おやすみタブレット」

 またカルビーは、睡眠の質を高める ”クロセチン” を含有した「にゅ〜みん」の先行予約販売を同11月、クラウドファンディングサイト「Makuake」で行いました。カルビー初の機能性表示食品です。摂取しやすいよう薄いフィルム状に仕上げていて、就寝前にフィルムを1枚舌の上にのせ、上あごに貼り付ける食べ方を想定していて、口に入れると素早く溶けるため、寝る直前でも水なしで噛まずに食べられます。開発には約2年半を費やしたといいます。

カルビー「にゅ~みん」
画像引用元:PR TIMES カルビー「にゅ~みん」

 飲料では、森永乳業が同9月、睡眠の質を高め、起床時の疲労感を軽減する機能性表示飲料「夜つくるわたし ピンクグレープフルーツ風味」をEC先行で発売しました。ターゲットは、美容によいとされる睡眠にこだわる女性で、睡眠の質を高めるとされる機能性関与成分の ”L-テアニン” に加え、 ”コラーゲン” と ”ヒアルロン酸” を配合しています。

森永乳業「夜つくるわたし ピンクグレープフルーツ風味」
画像引用元:PR TIMES 森永乳業「夜つくるわたし ピンクグレープフルーツ風味」

 アサヒ飲料も同9月、「十六茶プラス」シリーズから、睡眠改善やストレス緩和ニーズに応えた機能性表示飲料「やすらぎブレンド」を発売しました。こちらも同じく ”L-テアニン” を配合。主要ターゲットは、30〜40代の女性です。

アサヒ飲料「『アサヒ 十六茶プラス 』やすらぎブレンド」
画像引用元:PR TIMES アサヒ飲料「『アサヒ 十六茶プラス 』やすらぎブレンド」

 また名古屋のパウダーフーズフォレストは、 ”コロナ禍で頑張るあなたを応援する” と謳うコーヒー「Refresh Aroma GABA」を発売しました。在宅勤務でストレスや疲労を感じている人に向け、1杯分にGABAを約30mg配合。1日に2〜3杯飲むと、体内に蓄積されたGABAによる睡眠の質の向上効果が期待できるといいます。

パウダーフーズフォレスト「Refresh Aroma GABA」
画像引用元:PR TIMES パウダーフーズフォレスト「Refresh Aroma GABA」

心の問題に対応する食品も

 孤独感やストレスに繋がるコミュニケーション不足も問題になっています。ある調査では、在宅勤務で同僚と雑談する時間が1日に ”0分” と答えた人が4割に上りました。癒しニーズは強まっていて、 ”元気になりたい” ”癒されたい” といった気持ちを食で満たそうとする生活者が増加。食市場では、心の状態で選択できる商品が広がりを見せています。
 カンロは3月、「ピュレグミ」を刷新し、4つの味で計20色のパッケージを展開。 ”まったりぬくぬくイエロー” などオリジナルの色名を付け、気分で選べるようにしました。 ”いつもそばに寄り添い、気持ちを彩ってくれる存在” を目指したといいます。

カンロ「ピュレグミ」
画像引用元:PR TIMES カンロ「ピュレグミ」

 一方、メゾンカカオは1月、人間の8つの感情をフレーバーや包装デザイン、詩などで表現したチョコレートを販売し、若い女性たちの人気を集めています。
 在宅勤務は、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。オンオフをうまく切り替えられないと、憂うつになったり、イライラしたりと、メンタルヘルスにも支障が出やすくなります。オンオフの切り替えに悩む人は多く、食品各社はオンとオフ、それぞれのシーンに向くと謳ったコーヒーやハーブ飲料、チョコ菓子などを提案しています。

メゾンカカオ「EMOTIONAL」
画像引用元:PR TIMES メゾンカカオ「EMOTIONAL」

 在宅勤務は、生活者の身体や心の健康に大きな影響を及ぼしています。新たな働き方、ライフスタイルとして定着しつつある中、それをサポートする存在として ”食” の重要性が一段と高まっています。

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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