清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

2023年食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2023年04月01日

2023年食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

 2023年、さまざまな制限が解除され、私たちは ”with コロナ” の生活に入りました。生活も経済も、新型コロナウイルス発生前の状態に戻そうとする流れが加速度的に進んでいます。そんな大きな転換点となる今年はどんな食市場になるのか。今年も昨年に引き続き、弊社の「2023年 食市場のトレンド予測」をご紹介しましょう。

2023年色のトレンド予想ベスト10

1位 「ウェルビーイング」

 「well-being」には、「幸福」「健康」という意味があります。ウェルビーイングの定義においてよく引用されるのが、世界保健機関(WHO)憲章の前文の一節です。「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」つまりウェルビーイングとは、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態をいいます。
 電通の調査では、「ウェルビーイング」の認知・理解度は2割程度。男女ともに20代が最も認知・理解度が高く、60代が最も低い結果になりました。一方で、「精神的な満足感・幸福感を保つための生活を大事にしたい」と答えた人は6割近くいて、概念としての「ウェルビーイング」への共感度は高まっていると推察されます。

ウェルビーイングとは

  ”ウェルビーイング” をコンセプトに開発された商品も登場しています。
 カンロは、 ”ウェルビーイングな毎日に寄り添う” と謳う機能性表示食品のハーブキャンディ「ハーバルグッド」を発売しました。プラズマ乳酸菌やガラクトオリゴ糖を配合して免疫機能の維持をサポート。3種類のハーブを用いた ”アダプトハーブブレンド” を加えています。

カンロ「ハーバルグッド」
画像引用元:PR TIMES カンロ「ハーバルグッド」

 ニップンは、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で、機能性表示食品「vegeSuppo」シリーズの先行販売を開始しました。仕事や家事、育児に奮闘する女性たちのウェルビーイングをサポートしたいとの想いから開発。おいしくて手軽に野菜が食べられるポタージュやドレッシング計6品がラインアップされています。

ニップン「vegeSuppo」シリーズ
画像引用元:PR Wire ニップン「vegeSuppo」シリーズ

2位 「共創志向」

 共に創り上げる「共創」に取り組む企業や自治体が増えています。
 高校生や大学生、地元住民と一緒に商品開発をしたり、NFTを活用したデジタルアートの購入者に参加してもらって過疎化した地域を盛り上げようという活動が生まれたり。生活者の声を聴くという商品開発の基本に戻ったとも言えますし、新型コロナウイルス禍を経て、「共に」という意識が強くなっているのかもしれません。
 フレッシュネスバーガーは、創業30周年を記念して、 ”ファンと作るハンバーガー #わたしが考える和バーガー” キャンペーンを始めました。常に新鮮な驚きと体験を提供したいとの思いを込めて ”BE-FRESH30” と題し、1年を通してフレッシュな企画を実施する取り組みのひとつです。 ”新しいフレッシュネスバーガーの和バーガー” をテーマに掲げ、てりやきを超える、新たな日本を代表するバーガーを作ります。

フレッシュネス「ファンと作るハンバーガー #わたしが考える和バーガー」
画像引用元:PR TIMES フレッシュネス「ファンと作るハンバーガー #わたしが考える和バーガー」

3位 「タイパ消費」

 Z世代の間で、タイパ(=タイムパフォーマンス)を追求する姿勢が目立っています。タイパが重視されるのは、新型コロナウイルス下で消費生活のデジタル化が加速。やってみたいことが増え、面倒なことは減らしたいというニーズが強まったから。例えばドラマや映画は、倍速で視聴する情報収集のための ”消費” と、じっくり楽しむ ”鑑賞” に選別され、同時に ”隙間時間” が消えていくのもタイパ時代の特徴です。仕事、休憩、休日と分かれていた時間帯の境界は薄れ、ほんの短い間に動画、ゲーム、ショッピング、さらにはRIZAPグループの ”5分ジム” のような運動を楽しむのが当たり前になっています。

スマホと人の人形

4位 「Re活」

 With コロナの生活が浸透し、外出気分が高まっています。海外旅行も視野に、我慢していた旅行を計画したり、今まで見合わせていたイベントへ参加したり。再び活動を活発化させる ”Re活” が増えています。そうなると気になるのが、巣ごもり中、手を抜いてしまった美容やダイエット、異なる生活リズムによる体調の変化です。コロナ禍初期に注目されたのは、免疫力を高める食品でしたが、外出機会が増えるにつれ、脂肪対策商品へとニーズが変化。中高年を中心に、運動不足によるフレイルや、人との交流が減ったことによる認知機能の低下を危惧する声も大きくなっています。
 ”Re活” を応援する商品もいろいろ開発されています。
 明治は、お腹の脂肪を減らす機能を持つMI-2乳酸菌を使用した機能性表示食品「明治脂肪対策ヨーグルト」と「ドリンクタイプ」を発売しました。両方とも、1日1個の摂取を推奨しています。「国民健康・栄養調査報告」によると、日本人の肥満率は増加傾向にあるそうで、かつ、日本能率協会総合研究所の「健康ニーズ基本調査」では、 ”気になる健康用語” は、男女とも ”体脂肪” が1位でした。

明治「明治脂肪対策ヨーグルト」
画像引用元:PR Wire 明治「明治脂肪対策ヨーグルト」
明治「明治脂肪対策ヨーグルトドリンクタイプ」
画像引用元:PR Wire 明治「明治脂肪対策ヨーグルトドリンクタイプ」

 ポッカサッポロフード&ビバレッジは、 ”レモン由来モノグルコシルヘスペリジン” の働きで、一時的に自覚する顔のむくみ感を軽減することができる、機能性表示食品の炭酸飲料「キレートレモンMUKUMI」を開発しました。20~30代女性の約3人に1人が ”むくみ” に悩んでいるといわれ、また、リモート会議の増加によって顔に注目が集まる機会が増えたことや、今後マスクを外す可能性などもあり、 ”顔のむくみ” に関する悩みは増えていくのではと発売したそうです。

ポッカサッポロフード&ビバレッジ「キレートレモンMUKUMI」
画像引用元:PR TIMES ポッカサッポロフード&ビバレッジ「キレートレモンMUKUMI」

 コロナ禍で外出機会や人との交流が減ったことで、中高年においては体力だけでなく、認知機能の低下も懸念されています。こうした中、森永製菓は、機能性表示食品のプロテインパウダー「おいしい大豆プロテインGABA入り」を発売しました。1日摂取目安量の20g当たり、GABAを100mg配合。GABAには、加齢によって低下する認知機能の一部である、記憶力(見たり聞いたりしたことを思い出す力)や、空間認知力(物の位置、形、向きなどを正確に把握する力)を維持する機能があることが報告されています。

森永製菓「おいしい大豆プロテインGABA入り」
画像引用元:PR TIMES 森永製菓「おいしい大豆プロテインGABA入り」

5位 「食のダイバーシティ」

 ダイバーシティ、日本語では「多様性」と訳されます。一般には、組織において、国籍や性別、年齢などの違いを受け入れ、多様な価値観や発想を活かすことで、組織の競争力を高めようとする取り組みを指します。この「多様性」という言葉が、それとはちょっと異なる意味合いで、食の世界にも広がっています。お酒を飲まない、ビーガン・ベジタリアンであるといった価値観、アレルギーがある、咀嚼・嚥下能力が低下しているといった疾患や症状についても多様性と受け止め、垣根なく誰もが一緒に楽しめる食環境を作っていこうという機運が高まっています。

 農業においても、ダイバーシティ化が始まっています。岡山大学が代表機関となって「ダイバーシティ農業」の実現と普及に向けた活動が展開されています。担い手がいない、技能承継が難しい、経営が不安定、健康や事故といった不安があるといった農業に関する問題を、デジタルトランスフォーメーションを活用して克服し、多様な人々が多様な形で農業に携われる機会を増やすことで、農業人口の増加を図る、オーダーメード型の就農支援ビジョンです。岡山大学や自治体、JAや農家、関連企業と、農学、工学、経済学、医学を融合させた産学官連携体制を構築していて、「ダイバーシティ農業」による果樹農業の振興を軸とした地域活性化に取り組み、全国から就農希望者を呼び込むことで ”多様性に富み、活力あふれる地域社会” の実現を目指します。

岡山大学「ダイバーシティ農業による地域イノベーション共創拠点」構想
画像引用元:PR TIMES 岡山大学「ダイバーシティ農業による地域イノベーション共創拠点」構想

 昨年12月、姫路の「認定こども園 もく保育園」で、すべての園児が同じ食卓を囲み、同じものを食べることを目的に開催している “One Table Day” として、世界一のビーガンレストランの称号を持つ「菜道」(東京・自由が丘)の楠本勝三シェフが、園児全員の食物アレルギーに対応した給食を提供しました。メニューは、エスビー食品やグリコ栄養食品の業務用の “アレルゲンフリー” シリーズやグルテンフリーの商品を使っています。エスビー食品は、 “アレルゲンフリー” シリーズは、新型コロナウイルス禍で業務用商品が苦戦する中、順調に売り上げを伸ばしているといいます。

エスビー食品「姫路市 ”もく保育園” での取組み」
画像引用元:PR TIMES エスビー食品「姫路市 ”もく保育園” での取組み」

 そのほか聴覚や嗅覚を刺激する販促「五感消費」、食糧危機や環境問題など社会問題の解決に貢献する食材「オルタナフード」、環境に優しい藻類や海洋資源を浪費しない養殖魚など次世代の海の食「ネクストシーフード」、あえてお酒を飲まないライフスタイル「ソバーキュリアス」、Z世代の次の消費を担う2010年頃以降に生まれた「α世代」に対する企業のはたらきかけも始まっています。

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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