清田ダイアリー KIYOTA DIARY
代替製品の拡大
アメリカにおける食品の傾向
2023年06月01日
植物ベースのプロテイン代替製品は最近、非常に話題になっているが、それ以外にも代替製品が考え出され、商業化されている。そうした代替製品は普通の製品では環境問題、あるいは動物福祉、労働搾取などの生産に関して生じている種々の社会問題を少なくするために出されている。
今回はこうした肉や乳代替製品以外の食品の社会的な問題を指摘して出されている代替製品を特集してみた。
コーヒー

コーヒーはコーヒーの木の実から得られるコーヒー豆を焙煎したものであるが、コーヒーの木は亜熱帯地方の森林を開拓して栽培されるし、また原住民の労働力を搾取して作られるとか、子供の労働を使うような問題が指摘されている。そのために、亜熱帯で作らなくても楽しめるようなコーヒー代替製品が考えられている。
コーヒー代替製品には、ずいぶん前からバーレイ麦、ライ麦、チコリなどを使ってコーヒーの代替飲料が出されている。これらのほとんどはコーヒーの味とは異なるフレーバーである。
最近のニュースで、オランダのスタートアップ会社のNorthern Wonder社がコーヒーの木からでない原料を使って、コーヒーとほぼ同じ味がするコーヒー代替製品”COFFEE FREE COFFEE”を出している。

2年間いろいろな原料を試し、粉末製品とカプセル製品、カフェイン入りとカフェイン無しの製品を出している。この原料には亜熱帯地方の原料は一切使われていないという。
カプセル製品は、ルパン豆、バーレイ麦、ライ麦、イチジク、ひよこ豆、チコリ、キャロッブ、ブラック・カラント、カフェインと天然フレーバーから作られている。粉末製品にはイチジクとキャロッブが使われていない。
カフェインの入っている製品には普通のコーヒーと同じレベルで1,400mg/100gの量が入っている。カフェインは天然のものはすべて亜熱帯地方からのものであるので、合成カフェインを使っている。
この“COFFEE FREE COFFEE”に牛乳を入れてラッテ、カプチーノなどを作るとコーヒーと全く区別がつかないとしている。エスプレッソとしての粉末の製品はまだ完全にコーヒーと同じではなく、現在研究中であるという。それはコーヒーを入れた時に部屋中に広がるコーヒーの匂いである。最初はインターネットで販売するようである。
チョコレート

チョコレートの生産の影には、環境破壊や、森林破壊につながっており、また子供の労働者や奴隷労働者の存在があり、これらはチョコレート原料の70〜80%が生産されるコートジボワールやガーナで典型的な話だという。こうしたことからチョコレートの代替製品を出すところが最近増えている。
WNWN Food Labsの新たなチョコレート
イギリスのスタートアップ企業、WNWN Food Labsは、「世界初のカカオフリー・チョコレート」と謳って、新商品のチョコレート代替品を発表した。

このチョコレート代替品はカフェインフリーで、砂糖が少なく、80%の二酸化炭素排出量を削減することができるという。このチョコレート代替品は、鍵となる2つの原料である発酵させたオオムギとキャロブを混合して作る。チョコレートはカカオ豆を発酵し、焙煎したのち、加工するので発酵食品でもある。
近く販売が予定されている最初の商品は、ダークチョコレートの代替品で、栄養価は、砂糖が少ないこと以外、一般的なチョコレートと変わらない。
一方、含有されるフラボノイドと抗酸化物の組成は、WNWNでも完全には解明できていないといい、今後、健康効果などについて研究を行うそうである。
Cargill社の業務用チョコレート
Cargill社は業務用のヴィーガンチョコレートとクーベルチュール・チョコレートの新シリーズ”ExtraVeganZa”を発表している。

厳選された植物由来の原料、ヒマワリ種子粉末、米水飴および有機米シロップの使用により、豊かでニュアンスのあるフレーバーと、滑らかでクリーミーなテクスチャのある贅沢感覚のチョコレートであるとしている。
ヒマワリ種子粉末は、クリーミーで滑らかなテクスチャと、シリアルとナッツの香りがバランスよいフレーバーをもたらす。米水飴は、チョコレートの最終の質感に顕著な変化を加えるとともに、ハチミツとカカオの香りを強調した心地よい甘さを作り出す。
フィンランドの大手食品会社もカカオフリーに対応
フィンランドの大手食品会社Fazer社はフィンランドのVTT Technical Research Centreとパートナーシップを結び、ココアの木を使わないで、細胞培養でココアを作る実験に成功している。
こうした細胞培養での食品はEUでは新食品として認可が必要で、アメリカでもFDAの認可が必要である。ラベル表示も行政で決める必要がある。
蜂蜜
アメリカのMeliBio社はヨーロッパの有機食品会社Narayan Foods社とタイアップし、植物ベースのミツバチを使わない蜂蜜をヨーロッパでB2Bで販売を開始した。

MeliBio社は2020年に科学者と蜂蜜産業で長く働いていた人が創業した会社で、2021年10月にフードサービスでB2Bで植物ベースの蜂蜜を始めている。この植物性の蜂蜜は蜂蜜を集めている植物を使って作られたもので、蜂蜜の糖の成分(40%フラクトースと30%グルコース)と同じ割合で入っている。会社は詳しい製造方法などについては明らかにしていない。
ミツバチは最近減少しており、その原因は特定されていないが、農薬の使用、ミツバチを犯す黴あるいは他の細菌などがいわれている。この会社は現在の蜂蜜の生産方法が自然の蜂蜜の生存に影響していると指摘している。
フォアグラ
フォアグラはガチョウやアヒルに無理をした飼料を与えて肝臓を肥大化させたもので、最近は動物愛護に関係する人達から非人道的であると指摘されており、ヨーロッパの数カ国、ニューヨーク市では禁止されている。
Nestle社は“Garden Gourmet”ブランドで、植物ベースのフォアグラを製造し、スイスとスペインの市場で販売を始めた。

この開発にはわずか6か月で製品にしており、大豆ベースで味噌ペースト、トリュフ油、海塩を使っており、テクスチャー、フレーバー、見かけは本物に近いとしている。
”Garden Gourmet”ブランドは、最近、ヴィーガンのエビ”Vrimp”、ヴィーガンの卵”vEGGie”も開発し販売している。さらに最近では細胞培養によるフォアグラも作られている。
油脂
植物性肉代替製品では味があまりよくないものが多い。その理由は植物油脂ではなかなか普通の肉と同じような味やテクスチャーが得られないためである。そうした問題を改善し、植物性肉代替製品の消費を促進しようと、最近、そのための油脂の開発が活発になってきている。

Paragon Pure社は、米ぬか油から作られた代替脂肪”OlePBM”を開発している。植物性肉製品においてパーム油やココナッツ油にない動物性脂肪に近い官能特性を持ち、飽和脂肪酸含有量が少ない高機能性油脂に変えるために、オレオゲル化という技術を使っている。
オレオゲル化は、液体食用油を、植物性ワックス(米ぬかワックス)の3次元結晶ネットワークに固定化するというもので、出来上がった半固体状植物性油脂は、安定し、パーム油やココナッツ油よりも飽和脂肪が少ない。(ココナッツの飽和脂肪酸は80%であるのに対して、”OlePBM”は20〜30%である)
”OlePBM”は、動物性油脂、パーム油、ココナッツ油よりも融点が若干高いので、冷却時に製品内に保持されやすく、口のなかでは放出されやすい。
さらに、”OlePBM”は、硬さを用途に応じて調整することができる。
別には牛などの動物の細胞培養で脂肪を作ることも行われている。作られた脂肪は細胞培養で作られた動物の細胞培養肉(筋肉部分)と混ぜてステーキなどの肉を作ることが行われているが、この脂肪を植物性肉代替製品を作る際に混ぜて作ると、味やテクスチャーが非常に良くなる。
但しこうして作った肉製品はヴィーガンの人達には受け入れられないであろう。
卵製品
鶏卵の生産に対しては、鶏をびっしりと入れた鶏舎で生産されていたが、鶏をもっと自由な環境、フリーレンジで卵を産ませるようにする動きが強くなっている。Just Eat社は、水、単離緑豆プロテイン、カノーラ油、(2%以下)乾燥オニオン、ゲランガム、天然キャロット・エキス(色素)、天然フレーバー、天然ターメリック・エキス(色素)、クエン酸カリウム、塩、大豆レシチン、砂糖、タピオカ・シラップ、ピロリン酸3ナトリウム、トランスグルタミナーゼ、ニシン(保存料)を使って卵代替製品を作っている。

最近、Eat Just社はこれを使って、朝食用の製品、”Just Egg Bites” を発売した。

”Roasted Potato Red Pepper Dill”と”Roasted Poblano Black Beans Chili Pepper”の2種類を出している。上記の卵代替製品にヴィーガンのクリームと野菜のミックスやその他の成分を混ぜて作っている。
卵白

卵白は他の食品を作るときに構造性をよくするために使われるが、多くの植物性卵白は、ツノがしっかり立つメレンゲ、パヴロワ、ムースなどを作れるような基準を満たしていないことがあるが、最近、InnovoPro社がヒヨコマメをベースにした代替卵白システム”CP-Foam 1001”を発表している。これはコストを上げずに高いツノを出すことができる。
”CP-Foam 1001”は、同社の”CP-Pro 70”ヒヨコマメタンパク質をベースにした乾燥ブレンドで、強力で安定した構造、ニュートラルな味、ホイップデザートに求められる真っ白な外観をもたらすなど、卵白の機能を完全に模倣している。
また競合製品よりも優れた栄養プロファイルがある。
卵プロテイン

The Every社が遺伝子工学で改編したイーストを使った発酵(最近、精密発酵と呼ばれている)で、非常に可溶性の機能性の卵プロテイン”ClearEgg”を発表している。
このプロテインはこれまで市場にある動物性、植物性プロテインで一番、中性の感覚プロファイルを持ち、幅の広い温度と酸性度でも変性しないものである。さらにこのプロテインは卵白中にあるグリコプロテインと生物学的に同じである。このプロテインは非常に消化もしやすく、低温あるいは高温の飲料でのプロテイン源として使える。
The Every社はアニマルフリーのペプシンも出している。このプロテインはIngredion社から世界で販売されている。
カゼイン

チーズ代替製品を作るNobell Foods社は大豆にカゼインを作る遺伝子を組み込み、取り出したカゼインを使った植物性のチーズを製造することを考えている。こうした作られたチーズ代替製品は普通の牛乳から作られるチーズと全く変わりないものができるとしている。
この会社はすでに2,500万ドルの出資を受けており、1,000万ドルの資金を使い、来年の末には消費者にチーズ製品を販売できるとしている。
この会社の創始者は大豆にカゼインができる特定の遺伝子をいれることに成功しており、牛を使わないでできるチーズは、これまで普通のチーズを使っている製品を皆作ることができる。
牛乳からでないカゼインを作る方法は、ベルギーにあるThose Vegan Cowboys社も開発しており、この会社は微生物発酵を使って植物性のカゼインを作る方法を使っている。
まとめ

以上のような代替製品の製造は、比較的新しい技術を使って作られている。最近、植物たんぱくの利用、細胞培養、精密発酵、遺伝子編集などの食品技術が進んできており、そうした技術を駆使して、これまでの食品の代替製品や全く新しい食品を作り出す可能性が広がってきている。
この動きは今後も加速すると考えられているので、商品開発をしている人は積極的に新しい技術を勉強して、それを取り入れる心構えが大事である。
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この記事を書いた方
この記事を書いた方
JTCインターナショナル社長吉田隆夫
アメリカのフロリダ大学の分子進化研究所で2年間研究、さらにシラキュース大学で後にノーベル賞受賞された根岸英一先生の教室で2年間有機金属化学を研究し、IFF社の研究所で約11年間香料の研究。その後、カーリンフード社(後にブンゲ社)に5年勤務、独立して食品産業のコンサルタントを30年以上続けている。アメリカ食品産業研究会、e-食安全研究会、クリエイティブ食品開発技術者協会を設立し、その活動をしている。
http://www.e-syoku-anzen.com/