清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

飲食店、食品小売り、食品工場。人手不足の解消法は?

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2023年12月01日

飲食店、食品小売り、食品工場。人手不足の解消法は?

 コロナ発生前から、飲食店や宿泊施設、食品小売り、食品工場で課題になっていた人手不足。コロナ禍で離職者が増え、現在も、新規採用や外国人労働者の確保は難しい状態です。そんな中、食企業は、ロボットの活用、自販機の活用、調理人を育てながらの営業など、さまざまな取り組みにチャレンジ。常態化しつつあるwithコロナの食市場で生き残りをかけます。

共働ロボット

 人手不足を解消する最も具体的で分かりやすい解決策は、ロボットの活用です。しかも、単純に ”働く機械” としてではなく、人と共働する活用法を模索しているのが現状です。人のミスをチェックしたり、サポートをしたりするだけでなく、単独で役割を完璧に遂行する、任せきれるロボットの開発と実証実験が進められています。
 イトーヨーカ堂は、ロボットを使った業務効率化に乗り出しています。昨年11月、神奈川県の「アリオ橋本」で6種類のロボットの実証実験を始めました。商品が載った台車を自動でけん引する「品出しロボット」は、自らの位置を推定しながら動き、売り場に着くと自力で台車を切り離して倉庫に戻ります。従業員を後追いし、買い物かごやカートを運ぶロボットも導入していて、人間が1人で運ぶ2倍の量を一度に動かせるといいます。ほかにも、フードコートで活躍する「配膳ロボット」や、「車椅子型のアテンド支援ロボット」、「清掃ロボット」なども揃えました。
 飲食店で活躍できるロボットとして注目されているのが、完全自動型のドリンクロボット ”Robo-TENDER(ロボテンダー)” です。モバイルオーダーや配膳ロボットと組み合わせると、注文から提供までを自動化することができます。来店客がスマホで飲み物をオーダーすると、ロボテンダーがグラスに氷を入れ、酒を注ぎ、マドラーで混ぜてドリンクを完成させ、配膳ロボに載せます。ハイボールであれば約1分20秒で作ることができるといいます。

ロボテンダー
画像引用元:PR TIMES 「Robo-TENDER」

 プロントコーポレーションは、東京のスタートアップTechMagic(テックマジック)と調理ロボット「P-Robo(ピーロボ)」を共同開発しています。「ピーロボ」は、パスタをゆでる、ソースと具を鍋に入れる、ゆで上がったパスタと一緒に加熱して和えるといった作業が可能で、調理にかかる時間は最速で45秒。人間よりも計量が正確で味が安定しやすく、作業が速いためソースの香りが飛ばず、パスタもでき立ての味を引き出せるといいます。調理を丸ごと代替するため、厨房の人員を1~2人削減することが可能です。

ピーロボ
画像引用元:PR TIMES 「P-Robo」

 商業施設「羽田イノベーションシティ」にオープンしたのが、ロボットレストラン「AI_SCAPE(アイスケープ)」です。レストランの作業すべてをロボットが行う実証実験スペースとして、川崎重工業が出店したもので、アーム付きのロボットが接客や配膳を担当し、厨房では別のロボットがレトルトパウチの加熱や盛り付けなどを行います。川崎重工業はここで来店客の声も含めたデータを収集し、ロボットの研究を進めます。
 東京のアールティは、双腕人型協働ロボット「Foodly(フードリー)」を開発。愛知のイチビキ、熊本のヒライ、和歌山の藤本食品の惣菜製造ラインで稼働させています。イチビキでは、つくね具材を掴み、筒状のカップに投入する作業を行い、ヒライと藤本食品では、弁当や惣菜パックの盛り付け作業を担っています。ヒライでは、 ”ちくわサラダ” について従来の形状から「Foodly」が掴みやすいように変更し、それに伴って調理方法も一部変更したそうです。ロボットにとって、軟らかく形がバラバラな食品を盛り付けることは難易度が高く、と言ってロボットの精度を上げると値段も高くなり、現場への導入が進みません。そこで各社は、ユーザー側が ”ロボットと一緒に働く” ことで気付いた、ロボットが稼働しやすいような導線の見直し、盛り付けしやすい方法、掴みやすい包装容器などを検討することで、 ”ロボットフレンドリーな環境” を整え、速やかなロボット導入を目指しました。

フードリー
画像引用元:PR TIMES 「Foodly」

自販機活用

 人の手を介さない販売方法として、長きにわたり地味に活躍してきた自動販売機。コロナ禍で、非対面・非接触・キャッシュレスで購入できる自販機の価値が見直され、冷凍食品や惣菜など、さまざまな食品が自販機で販売されています。そして今、マーケティングや食品ロス対策、災害時の物資の提供やCO2吸収など、単に商品を販売するだけではない別の役割が自販機に期待されています。
 群馬県庁32階の官民共創スペースに設置されているのは、双方向型の自販機 ”イノベーションマシーン” です。県内の事業者が新商品などを販売。購入者は商品に付いているQRコードを読み込んでアンケートに答えるとクーポンが贈られ、事業者は新商品に対するフィードバックが得られるという仕組みです。

イノベーションマシーン
画像引用元:PR TIMES 群馬県庁32階の官民共創スペースに設置された「イノベーションマシーン」

 食品ロス削減を目的とした無人販売機の「fuubo(フーボ)」が、役所や駅ビル、ショッピングモールなどに次々に設置されています。賞味期限が近い、期間限定のパッケージになっているなどの理由で流通できない商品をお得に購入できる自販機です。生活者は、「fuubo」で商品を購入するだけで食品ロス削減に貢献できますし、事業者にとっては、食品廃棄にかかる費用の軽減、SDGsに関する取り組みに繋がります。
 ダイドードリンコが、積水化学工業住宅カンパニーと共同で、「流山リードタウン」に安全安心な暮らしをサポートするオリジナル自販機を設置しました。飲料に加え、菓子やマスク、紙おむつなどのベビー用品をラインナップしていて、災害などで停電が発生した時には、人的操作で自販機内の商品を無償で取り出せ、携帯電話やラジオの非常用電源としても利用可能です。

オリジナル自動販売機
画像引用元:PR TIMES 流山リードタウンに設置された「オリジナル自動販売機」

 アサヒ飲料が6月から実験を始めたのが「CO2を食べる自販機」です。庫内に搭載している特殊材が大気中のCO2のみを吸収して木と同じような役割を果たすそうで、1台当たりの年間CO2吸収量は、その自販機が使う電力のために排出されるCO2の最大20%を見込んでいます。自販機が吸収したCO2は、さまざまな工業原料として活用したり、吸収材を肥料に配合して土壌に散布することでCO2の土壌貯留を図るほか、CO2固定化のためコンクリートの原料として使ったり、海藻の養殖に用いたりすることを検討しています。CO2吸収能力が高い素材の開発を進め、将来的にはCO2排出量と吸収量が同等となる ”カーボンニュートラル” を実現する自販機の展開を目指しています。

CO2を食べる自販機
画像引用元:PR TIMES 「CO2を食べる自販機」

育てる飲食店

 海外での日本食人気がますます高まりを見せる中、日本の外食企業は積極的に海外展開に挑戦しています。が、悩みは技術を持った職人不足。そこで、実店舗で働いてもらいながら育てる、顧客に育ててもらう飲食店が登場しています。調理師学校を出て、見習いから始めて修行をし・・・。という従来の過程をすべてすっ飛ばし、即戦力となる人材を作り上げ、海外の店舗に配属する。賃金が高い国で職人として働くことを希望する若者も多く、お互いの利益は一致しています。
  ”育てる飲食店” の先駆け的な存在が、世界5地域に寿司や天ぷらの店を展開する「銀座おのでら」です。 ”お客様に育てていただく鮨店” がコンセプトの立ち食い寿司店「鮨 銀座おのでら 登龍門」を銀座にオープンさせ、withコロナのさらなる世界展開に向けて実力のある後進を育てています。「登龍門」では、若手職人が寿司を握りながら技術を磨きます。その代わり顧客は、「銀座おのでら 総本店」と同じネタを若手職人の ”勉強代” としてよりリーズナブルな価格で食べることができます。

鮨 銀座おのでら 登龍門
画像引用元:PR TIMES 「鮨 銀座おのでら 登龍門」

 G-FACTORY(ジーファクトリー)が開校している「飲食塾」は、生徒が実店舗で、調理、サービス、運営をする飲食店「守破離」をオープンさせました。しかも、そば・うどんや寿司だけでなく、 ”焼鳥職人コース” や ”ラーメン職人コース” もあり、期間ごとに4つのコースの生徒たちが店を運営するので、業態も変更します。完全素人だった生徒たちが、プロの料理人へと急成長していく様子を、 ”客” という立場から実感し、応援してもらえる店づくりを目指しています。

守破離
画像引用元:PR TIMES 飲食塾の生徒が調理、サービス、運営をする飲食店「守破離」

 料理人養成校「飲食人大学」を運営するCiXホールディングスは4月、英会話スクールを展開するベルリッツ・ジャパン、人材サービスを手掛けるグローバルイニシアティブと提携。「海外就職コース」を新設しました。高収入を得たい海外就職希望者が増えていることを受け、3ヵ月間で寿司職人を目指すコースに、ベルリッツの英会話レッスンや、海外でのビザ取得に必要となる店舗実習を追加。希望者は語学サポートとして、ベルリッツのオリジナルカリキュラムを2年間受講できます。2020年度は2割だった海外希望者が、22年度は約8割になったといいます。

海外就職コース
画像引用元:PR TIMES 飲食人大学の新コース「海外就職コース」

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

当サイトでは、利便性向上を目的にCookie等によりアクセスデータを取得し利用しています。
詳しくは、プライバシーポリシーをご覧ください。