清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

2024年食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2024年04月01日

2024年食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

 すっかり日常が戻った今年のトレンドの特徴は、生活者の「二極化消費」がますます顕著になっていること。1位に挙げた「プロパ志向」は、まさしく時間消費の二極化を表しています。加えて、「ウェルビーイング食」や「食のインクルーシブ化」など昨年のキーワードの発展形もあり、さらに今年は、オリンピックイヤー。食市場にも、フランス、パリ、五輪に因んだ料理や商品がたくさん提案されるでしょう。

1位「プロパ」

2024年食のトレンド予想HITキーワードBest10

 タイムパフォーマンス=タイパ」が重視されている今、弊社が提案したいキーワードは、「プロパ=プロセスパフォーマンス」です。時間対効果の良し悪しは、消費した時間の充足感に大きく左右されます。時短を求めることと、じっくり時間をかけたいことの二極化が鮮明になっていて、中でもプロセスを楽しみたいという欲求は大きくなっています。プロセスを満足感のあるパフォーマンスに昇華できるか否かが、プロパの価値を決めます。
 アサヒ飲料は、あえてひと手間かけて自分好みに作る高果汁希釈飲料 ”Fruits Presso” を数量限定で発売しました。果実を皮ごと丁寧にプレスして作った濃縮果汁に、果実を搾汁する際に残った皮や芯、種などから採取したアップサイクル香料を加えた飲料で、注いでいる時、混ぜている時、飲用する時、果実の皮をむいた時のような香りが楽しめます。
 同社の調査で、仕事では効率を求める一方で、仕事以外の時間では ”効率ではなく、自然に近い生活を送りたい” ”時間をかけて、自分で作ったものを飲用したい” というニーズがあることが分かったことを受けて開発したそうです。

Fruits Presso
画像引用元:PR TIMES アサヒ飲料「Fruits Presso」

2位「ウェルビーイング食」

 昨年は、「ウェルビーイング」をキーワードに挙げました。「well-being(ウェルビーイング)」には、「幸福」「健康」という意味があります。ウェルビーイングの定義においてよく引用されるのが、世界保健機関(WHO)憲章の前文の一節で、 ”健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること” を意味します。
  ”食とウェルビーイングの関係性” について、食企業が積極的に調査に乗り出し、エビデンスを確保する動きが見られます。ウェルビーイングをテーマに展開される商品や販促、サービスは、今後ますます増えるものと思います。
 味の素は、米国の調査会社Gallupと連携し、「調理の楽しさ」、誰かと一緒に食事をする「共食」とウェルビーイングの関係を示す調査を実施。その結果、調理を楽しむ人、共食が多い人はウェルビーイングをより強く実感していることが分かりました。
 一方、日清食品と安藤スポーツ・食文化振興財団も、同様に、Gallupの協力の下、「食はウェルビーイングを構成する重要な要素である」という仮説を検証する研究調査を実施。その結果、 ”食とウェルビーイング” の間には強い関係性があることを世界で初めて立証。「食とウェルビーイングの関係性レポート」として発表しています。

ウェルビーイング×食
画像引用元:PR TIMES 味の素「ウェルビーイング×食」

3位「食のインクルーシブ化」

 「インクルーシブ」とは、すべてを包括する、包み込むという意味です。昨年は、「食のダイバーシティ」をキーワードに挙げました。「ダイバーシティ」は、性別や年齢、国籍、人種、宗教、障がいの有無といった個々の違いを受け入れることですが、最近では、それだけでは十分ではなく、多様性があるのは当然のこととして、さらにそれぞれの個性を尊重しながら共生する「インクルーシブ」に移行しています。インクルーシブ化を目指し、これまで見落とされてきた少数派の意見や視点に注目することで、多数派にも受け入れやすい、新たなニーズの発見に繋がるかもしれません。
  ”ダイバーシティ&インクルージョン” を推進する明治は、LGBTQ+をはじめとする多様な人が自分らしく楽しめるバレンタインを目指し、多様な価値観、多様な気持ちを表現したデザインのチョコレート「マーブルパウチダイバーシティパッケージ」を数量限定で発売しました。 ”DEAR PARTNER! 大切なパートナーへ。” ”FULL OF SMILES! あなたの笑顔でシアワセ広がる。” など5種類のマルチメッセージを掲載したパッケージを用意。さまざまな価値観の人々がメッセージに触れ、共感し、共有してもらえることを目指します。

マーブルパウチダイバーシティパッケージ
画像引用元:PR Wire 明治「マーブルパウチダイバーシティパッケージ」

4位「腸育」

 腸の働きが免疫力や認知機能など全身の健康と密接に関わっていることへの理解が広がり活気づいた腸活市場が、ここにきて一段と深化。一人ひとりが自分の腸内環境を育んで健康づくりに生かす「腸育」が注目されています。
 理由は、ヒトの腸内に定着する菌の種類や数は幼少期に決まり、それが将来の健康リスクにも関与する可能性、腸内細菌の集合体「腸内フローラ」は個人固有のものであることなど、具体的な腸内の仕組みが最先端の研究で明らかになり、エビデンスが確立してきているからです。腸内研究を進め、より効果的な「腸育」を訴求する企業の取り組みが目立つようになっています。
 カルビーはネクスト腸活トレンドとして、一人ひとりが自分の腸内フローラに合った食べ物を選ぶことで、身体によい ”腸内代謝物質” を効率よく生み出す「パーソナライズ腸活」を紹介しています。最先端の腸内環境研究では、腸内フローラは個人固有であることや、人が摂取した食品を腸内細菌が食べることで産生される代謝物質が身体にいい影響を与えていることなどが判明。個人の腸内細菌に合ったシリアル食品グラノーラを購入できる「Body Granola」を始めました。事前の検査で57のタイプに分類した腸内細菌の集合体 ”腸内フローラ” のうち、自分がどれに該当するかを把握。タイプに合わせておすすめされたトッピングを全6種類から3つ選び、ベースとなるグラノーラに混ぜて利用します。

Body Granola
画像引用元:PR TIMES カルビー「Body Granola」

5位「ニッポン+(プラス)」

 自然環境、その土地の暮らしや文化、土壌の特徴を取り入れた「日本テロワール」という概念が日本に浸透しつつある中、日本の食文化が海外の食と新たなマッチングを始めています。日本独自の食材を海外のテイストに仕上げたり、日本料理の手法や技術を海外の食材に活用したり、調理法が似た海外の料理を日本のメニューに置き換えたり、ニッポンに+(プラス)、ニッポンを+(プラス)して、新たな価値を創造。「インバウンド消費」を追い風に「ニッポン+」の動きが加速しています。
 伝統的な日本の食文化のエッセンスを守りつつ、現代的なアプローチで新たな魅力を引き出している例があります。
 昆布・佃煮の老舗、大阪の神宗は、天然だしとスパイスの本格的な鍋が楽しめる鍋つゆ用セット ”美鍋” シリーズを発売しました。だしは粉末だしや液体だしは使わず、昆布の原藻とカツオ花削りをそのまま使用。そこにレモングラスや八角、ウコンやクコの実などのスパイスを合わせています。 ”本物感、素材感” に、和に洋をプラスした ”新しさ” と ”手軽さ” を加えた、ほかでは真似のできないオリジナリティ溢れる商品に仕上げています。

美鍋シリーズ
画像引用元:PR TIMES 神宗「美鍋シリーズ」

6位「イマーシブ食」

 エンタメ業界で話題の「イマーシブ」の波が、食業界でも広がり始めています。イマーシブは英語で ”没入感” を意味する言葉。VRやAR、プロジェクションマッピングといった最新デジタル技術を活用することで、映画や物語、絵画やマンガの世界に入り込んだかのような体験を演出できると注目され、テーマパークはもちろん、遊園地や美術展などで新たな体験型サービスとして取り入れられています。
 外食市場では、顧客がミステリー劇の登場人物の1人となり、演出に巻き込まれながら食事を楽しむ ”イマーシブレストラン” や、五感による体験で没入感に浸れるカフェなどが登場しています。

没入型ドラマティック・レストラン~豪華列車はミステリーを乗せて~
画像引用元:PR TIMES 西武園ゆうえんち「没入型ドラマティック・レストラン~豪華列車はミステリーを乗せて~」

7位「鮮(度)ブランド」

 「2024年問題」によって、生産者から生活者の元へ、その日のうちに農水産物や商品を届ける「鮮度」をウリにしたブランド、さらには「鮮度」と「品質」をシステムによって保証するブランドなど、「運ぶ」という時間経過が価値の判断基準として認識されるようになります。トラックを使わず、スピード配送も実現できると活用が進みそうなのが新幹線や飛行機の余剰スペースを使った輸送。生産地と消費地の距離がますます近くなるとともに、鮮度と珍しさが今まで以上の付加価値になります。

吉乃川 朝詰め しぼりたて純米無濾過生原酒
画像引用元:PR TIMES 紀ノ国屋「吉乃川 朝詰め しぼりたて純米無濾過生原酒」

8位「アラビアングルメ」

 「アラビアングルメ」は、アラブの食文化だけではなく、エジプトやトルコ、サウジアラビア、イスラエルといった中東や地中海地域など幅広いイスラム文化圏の食文化が含まれた料理の総称として挙げたキーワードです。
 アラブの料理は、暑い気候でも健康的に生活できるよう、豆や野菜、ハーブ、スパイス、オリーブオイル、柑橘類、ヨーグルトなどをふんだんに使ったヘルシーなメニューが多く、世界的な健康志向の高まりを追い風に、認知度が高まっています。
 2017年、米国・ニューヨークで、中東料理に注目が集まり、提供する店が増えました。日本においてもヘルシー感が評価され、ひよこ豆のペースト「フムス」が流行り、中東フードへの関心が高まりました。
 そんな土壌がある中、米国やフランスへの旅行でアラビアングルメを経験した生活者が増え、そのおしゃれ感が流行に敏感な女性たちの興味を惹き付け、日本でもファラフェルやフムスを提供する外食店がじわり人気上昇中。ヘルシーで美容効果があり、フランスの香りも漂うアラビアングルメは、パリ五輪を目前に、さらなる盛り上がりを見せそうです。

Arabian Restaurant & Cafe Bar Oasis
画像引用元:PR TIMES 東京体育館「Arabian Restaurant & Cafe Bar Oasis」

9位「濃厚系」

 生活者が濃い味を求める傾向が強まっています。今年は、濃い系にさらなる背徳感が加わった「濃厚系・特濃系」がトレンドです。生活者の間では、 ”濃い” = ”おいしい” というイメージが定着していて、 ”濃い系” 商品は分かりやすく ”お得感” と ”贅沢感” を伝えられるのが特徴。「癒やしニーズ」が強まる中、手の届く範囲のご褒美として ”濃厚系” 商品に手を伸ばす生活者は増えています。
 それには少なからず、コロナ禍における生活の変化が影響していると思われます。コロナ禍でさまざまな制約を受けた生活者が、超こってりラーメンで背徳感を味わったり、コクのある甘いドリンクで癒やされたり。また家飲みの増加も影響していて、つまみ需要の高まりとともに、刺激のある濃い味のスナックなどを求める声が増えています。さらに、タイパ意識の浸透が濃い味商品の開発を促している面も。調理時間の短縮に伴う具材の減少により、生活者の好みは、具材のだしを楽しむ寄せ鍋から鍋つゆ自体にしっかりと味がついた濃い味鍋に変化しています。

特濃つけ麺
画像引用元:PR TIMES つけ麺専門店 三田製麺所「特濃つけ麺」

10位「逆輸入戦略」

 日本企業の「海外市場開拓」が加速する一方、日本に製造拠点を持つメーカーが敢えて海外で開発したブランドを逆輸入する動きがあります。また、日本人が日本のノウハウで海外で展開を始めた飲食店の成功を背景に、日本に系列店をオープンさせるという里帰り逆輸入もあります。
 「逆輸入戦略」は、馴染みのメーカーであること、海外で人気のブランドであることのふたつの安心感と、本場の味、未知の味わいが楽しめる期待感が、その広がりを後押ししています。

ベビースタードデカイラーメン(TAIWAN麻辣味)
画像引用元:PR TIMES おやつカンパニー「ベビースタードデカイラーメン(TAIWAN麻辣味)」

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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