清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

食品添加物の不使用表示に関するガイドライン案を読んで

改めて考えたい食品の安全と販促の表示

長村洋一
一般社団法人日本食品安全協会理事長 長村洋一

2022年04月01日

食品添加物の不使用表示に関するガイドライン案を読んで

 私は、前回のこの欄にも書かせて頂いたように、この検討会はオンラインで開催されたので傍聴できる検討会を全部聞かせて頂いた。そして私が理事長を務める日本食品安全協会からはパブリックコメントを出したが、そのコメント作成のまとめ役として中心的に働いた。こんな経過をベースに私見を述べさせて頂く。

はじめに

 昨年の3月4日から12月9日まで7回にわたって食品添加物の不使用表示に関するガイドラインの検討会が開催された。第6回検討会においては、禁止事項を11項目に類型化し、各々に具体例が付けられ、第7回の検討会資料では10項目になっていた。

 そして12月22日から1月21日間でパブリックコメントの募集が行われた。パブリックコメント用のガイドラインは第7回の検討会の資料のように10項目の類型とその具体例が示されていた。今後はパブリックコメントを参考にしたうえで、3月に策定されたガイドラインが公表される予定となっている。

背景及び趣旨から感じる根本的な問題

野菜を調査するイメージ

 ガイドラインは何故このガイドラインを作成することになったかの背景が4つ述べられている。

 (2)と(4)は行政的な事項であるが、次に記載するように(1)と(3)は行政的観点からニュアンスが異なっている。

 (1)食品添加物は、食品安全委員会で安全性が評価され、厚生労働省での審議を経て食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づき成分規格や使用基準が設定され、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)によりその表示方法が規定されているところである。しかしながら、食品表示基準上、食品添加物が不使用である旨の表示(以下「食品添加物不使用表示」という。)に関する特段の規定はなく、現状では、食品関連事業者等が容器包装に、任意で「無添加」、「不使用」等の表示を行っている。

 (3)これまでの消費者意向調査等においては、食品添加物は安全性が評価されていること等について十分に理解されていない、商品選択の際に食品添加物不使用表示がある食品を購入している消費者が存在する、食品添加物不使用表示がある食品を購入する際に一括表示欄を確認しない消費者が存在する、ということが分かった。

 これを読んで強く感じたのは、ガイドラインを出すのも大事であるが、もっと大切な教育が全く考慮されていないことである。

 特に(1)に書いてある「食品添加物は、食品安全委員会で安全性が評価され、厚生労働省での審議を経て食品衛生法(昭和22年法律第233号)に基づき成分規格や使用基準が設定され、食品表示基準(平成27年内閣府令第10号)によりその表示方法が規定されているところである。」に関していえば、食品添加物の安全性には問題がないと明記している。しかし、(3)においてそのことが国民に理解されていない、と述べている。

 問題は、このように安全であるものを、そうでないと考える人たちがいて、その人たちが「不使用表示」を求める社会的状況を容認しようとしている姿勢である。世の中には「絶対安全と言い切れる物質などないので、添加物はない方が良いに決まっている。」と考えている人が結構多いことは事実であり、その心理に媚びた「無添加」表示の食品が多数氾濫しているのも事実である。

 したがって、このガイドラインが出されたとき、合法的に当社の製品は無添加であると顧客に認識させる手法が編み出されることが推測される。逆にいえば、ガイドラインに抵触しなければ「無添加表示」のお付きが与えられることになる。このことは、検討会の席において何人かの委員からも出されていた。

 今回の検討会を通して議論された事を振り返りながら、ガイドライン案を読んで痛感したことは、結局消費者のリテラシーを高めなくてはいけないことは非常に明らかなことである。しかし商品の販売をおこなう事業者が、「無添加安全主義」の消費者にどのように対応するか、の温度差が大きいことが強く感じられる。こんな状況にある消費者の添加物に対するリテラシーを高めることの必要性を改めて認識した。

各分類を改めて検証する

 ガイドラインの10項目の分類を簡単に検証し、我々がコメントを出した部分については少し詳細に論じさせて頂く。

類型1単なる「無添加」の表示

プロテインドリンク

 これは言葉通り、何が無添加なのか訳の分からない無添加の表示を禁止したものであるが、世の中にはこの単なる無添加表示が「添加物危ない」の感覚を生み出す元凶であるだけに非常に望ましい禁止事項である。

類型2:食品表示基準に規定されていない用語を使用した表示

 この具体例として、「人工甘味料不使用」等、人口、合成、化学調味料、天然等の用語を使用、とあるが、「天然=安全」との考えの人たちの過ちを正すのに有用である。

類型3:食品添加物の使用が法令で認められていない食品への表示

 これは、元々添加できない保存料などを無添加と表示することの禁止であるので、当たり前のことであるが、こんなことまで書かなくてはいけないほど「無添加表示」が流行している裏返しである。

類型4同一機能・類似機能を持つ食品添加物を使用した食品への表示

 これは我々がコメントを出した類型である。この具体的表示例の例1は日持ち向上目的で保存料以外の食品添加物を使用した食品に、「保存料不使用」と表示」、例2は「既存添加物の着色料を使用した食品に、「合成着色料不使用」と表示」となっているのを、例1を「日持ち向上効果のある食品添加物を使用した食品に、「保存料不使用と表示」、例2を「着色効果のある食品添加物を使用した食品に、「合成着色料不使用」と表示」とする、という変更をコメントとして出した。

 理由は、例えば保存料的効果のあるクエン酸、酢酸などを味付けのために添加して食品がその効果で美味しくなるので添加しておいて、ついでに「保存料無添加」と記載する例が実際に存在していたが、この業者の主張は「クエン酸」はあくまで呈味の目的で添加したもので、保存の効果を狙ったものではない、という詭弁を述べさせないためである。色素については「天然の着色料を用いた」という言い逃れを防ぐためである。

類型5:同一機能・類似機能を持つ原材料を使用した食品への表示

 この類型の説明の冒頭に、この類型は、「○○「無添加」、「○○不使用」と表示しながら、〇〇と同一機能、類似機能を有する原材料を使用している食品への表示をいう、とある。この内容は前述の類型4の我々のコメントを読んでいただけばお分かりいただけると思うが、類型5と同じことを示しているので類型4を類型5に吸収させられると考えられる。コメント作成の時類型4と5を纏めた大幅改正の意見も出されたが、結果としては出さなかった。

類型6:健康、安全と関連付ける表示

おにぎりを握るシーン

 よく見かける「無添加だから安全」、「無添加だから安心」の科学的根拠はないどころかむしろ逆のこともあるので当然の禁止事項である。

類型7:健康、安全以外と関連付ける表示

 この類型の具体例2、「保存料不使用なのでお早めにお召し上がりください」と表示、の削除をコメントとして出した。実はこの具体例に関しては検討会の席でも大きく意見が分かれた事例であった。

 私も最初はこの具体例を表示する業者は、「無添加を安全」と考える人を対象に事業者は使用している、ケースが非常に多いと感じているので加えるべきと考えていた。ところが、検討を重ねてゆくに従って、無添加であることが心底安全である、と考えて商品を作成している業者の一部には伝統製法であることを重視して不衛生な作成を行っているケースが多々ある、との指摘がなされた。

 そこで、添加物を使用すれば安全が確保されやすいものをわざわざ無添加にするのは傷みやすい食品となるので、安全を優先して考えるとこの表示は許すべき、との結論に達した。

類型8:食品添加物の使用が予期されていない食品への表示

新鮮な食材と健康のイメージ

 この類型は、消費者が、通常、当該食品添加物が使用されていることを予期していない食品への無添加あるいは不使用の表示をいう、とあり当然の禁止事項と考えられるが、こうした事例を取り上げなければならないのは、類型3と同じように、こんなことまで書かなくてはいけないほど「無添加表示」が流行している裏返しである。

類型9:加工助剤、キャリーオーバーとして使用されている(又は使用されていないことが確認できない)食品への表示

 これは具体例に、原材料の一部に保存料を使用しながら(確認できない例も含んで)、最終製品に保存料不使用」と表示、とある。キャリーオーバーは元もと表示する必要のない事項なので当然である。

類型10:過度に強調された表示

 この具体例1商品の多くの箇所に、目立つ色で、○○を使用していない旨を記載する、とあるのを、「添加物を使用しながら、その中の特定の食品添加物(例:保存料、着色料、○○等)のみを不使用にした場合に「○○不使用」と表示」とする、をというコメントを出した。

 理由は、添加物は国が安全と認めているのであるから、特定の添加物の不使用のみを原則として表示させるべきではない。「添加物危ない」という消費者の不安感に対してはリスコミにより対処してゆくべきであると考えられる、という理由をつけた。

この記事を書いた方

長村洋一

この記事を書いた方

一般社団法人日本食品安全協会理事長長村洋一

藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)において臨床検査技師教育を平成17年まで行い、その後鈴鹿医療科学大学の副学長を令和3年まで務めた。その間に食の健康に関する様々な問題に取り組み、正しい食の安全・安心情報が伝わる社会の実現を目指し日本食品安全協会を立ち上げ健康食品管理士/食の安全管理士の育成を行っている。

http://www.ffcci.jp/

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