清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

モロッコの味

豊かな土地と歴史から生まれる地中海と融合する味

太木光一
食品評論家 太木光一

2019年05月01日

モロッコの味

 モロッコは熱い土地柄のためエスニックな料理を思い浮かべるかもしれない。しかし実際はスペイン料理やフランス料理など多様。今回はそのルーツとモロッコ料理について解説する。

モロッコについて

 モロッコはアラビア語で西の王国を意味する。アフリカ大陸の北西部にあり、北は地中海、西部は大西洋に接する。東部はアルジェリア、南部はサハラ砂漠で、日本の約12倍(44万6千平方キロ)の広さである。

 1956年スペインとフランスより独立し、民族構成はアラブ人65%、ベルベル人35%、公用語はアラビア語とフランス語である。現在の人口は2,900万人強(2001年)。

モロッコの産業

 国土の中央を北東から南西にかけてアトラス山脈が走り、最高点は4,165メートル、南東部のサハラ砂漠は乾燥地帯。海岸部は地中海と大西洋で、ともに地中海気候で夏は高温乾燥、冬は温暖多雨で肥沃な農業地帯。海岸部の農地では小麦、とうもろこし、オリーブなどを多産。

 漁業ではいわし、えび、かれい、たこ、かきなどの漁獲高が多い。特に農業ではトマト、ピーマン、にんにくなどの産出が多く、日本で見る野菜と違って陽光に育てられたトマトは燃えるような深紅、ピーマンも2倍以上と大きい。早期野菜は主に北欧に輸出される。

 鉱業はリン鉱石を産出し、その埋蔵量は世界最大、その他鉛、亜鉛、マンガン、コバルト、石油などを産出する。

モロッコで食べられる地中海料理

 以前はスペインとフランス領であったため、またイタリアとも近接しているため、いわゆる地中海料理を堪能できる。

 スペイン料理ではパエリア、ガスパチョ、小エビのサラダ、ソーセージの煮物、メルルーサのマリネ、そら豆とソーセージの煮物、エビと貝類のサルスエラ風煮込みなど海鮮をベースにしたものが多い。

 フランス料理では有名なブイヤベースを始め、ニース風煮込みのラタトイユ、魚のプロバンス風煮込み、うなぎの赤ワイン煮、かにのグラタンなどと多様。

 イタリア風ではあさりのスパゲッティ、チーズと海の幸ピザ、あさりのワイン蒸し、小魚などのマリネほか。

モロッコ料理

モロッコ料理、クスクス

 以上のメニューに在来のモロッコ料理とみられるカバラ、ケフタメシュイ、タジン、ハリラ、クスクスなどが加わる。

クスクス

 特にクスクスは、北アフリカの先住民のベルベル人が作り出したと言われ三千年の歴史を持つ。この原料はデューラム小麦でスパゲッティと同じ。スパゲッティの歴史は12世紀であるからその古さが理解されよう。そしてアメリカでは朝食の代わりにクスクスが人気を呼ぶ。

 現在では肉や魚でなくナツメヤシやレーズンを加えた甘いクスクスもデザートに利用され新しい地中海味として喜ばれている。

ケバブ

 ケバブはトルコから伝わった料理が土着。羊肉(牛肉もある)を角切りにし、肉、トマト、ピーマンを交互に串にさし、塩こしょう、オリーブ油をぬって網の上で焼く。カイエンペッパーで味を整える。

タジン

タジン

 タジンは庶民性の強いなべ料理。鯛やほかの魚の内臓もとり洗ってよくふき、塩少々とレモンで味をつけ、30分ほどおく。コリアンダー、赤唐辛子、にんにく、クミンシード、オリーブ油、塩、パプリカ、レモン汁をミキサーにかける。これを鯛の腹につめ、人参1本を輪切りにし土鍋にしき、鯛をのせはじめ強火で、火が通ったら弱火にして約30分間蒸し焼きにする。上にオリーブとレモンを散らす。材料は魚の代わりに肉でもよく、野菜は南瓜、オクラ、ポテトでもよい。人気メニュー。

ハリラ

 ハリラは羊肉、玉ねぎ、エジプト豆、トマトなどを煮込んだスープ。魚や羊肉でダシをとっておく。極めて庶民的で日本の味噌汁とも言えよう。常時煮込んであるので注文すればすぐサービスされる。ややスパイシーで店によってはコリアンダー入り、レモン入りなどもある。

バステイラ

 バステイラはやや高級なメニューでパイ皮にハト肉あるいは鶏肉を包んで焼いたもの。上にアーモンドやレモンを絞ったりする。

その他のモロッコの味

デーツとミントティー

 モロッコで美味しいのはフランスパンとワインである。特に焼き立てパンは抜群である。またブドウがよくとれ、1リットル数百円で味もよくフランスの遺産ともよべよう。

 また果物の王国である。オレンジ、イチジク、ブドウ、ザクロ、メロン、アンズ、モモ、何れも大ぶりで糖度も高くジューシーで美味。値段は驚くほど安い。ビタミン不足は果物で補える。また街のジューススタンドでも手軽でフレッシュな味が楽しめる。

 多産されるデーツ(ナツメヤシ)はカルシウムや鉄などが多く疲労回復によく生食は採取期のみであるが甘く美味。乾燥物は常時出回り日本にも輸入されている。

 モロッコで忘れられないのがミントティ。香りが爽やか。ティカップにミントの葉を入れ熱湯を注ぎ大量の砂糖を加えて飲む。暑い時に、長袖の服を着て熱いミントティを飲むのがモロッコでの伝統的な避暑の方法である。

さいごに

 代表的な都市では最大の都市のカサブランカの旧市街のスーク(食品市場)は終日賑わう。砂漠の街マラケシュ、歴史の古いフェスやタンジェールは誇るべき世界遺産の街である。

この記事を書いた方

太木光一

この記事を書いた方

食品評論家太木光一

1947年早稲田大学商学部卒業。同年昭和産業に入社し、一貫して調査業務に携わる。調査部長を経て1979年に退社するが、在社当時から食品と食品産業について新聞・雑誌に健筆をふるい、食品産業評論家として活躍する。通産省中小企業振興事業団の需要動向委員のほか多くの政府委員を歴任するとともに食品メーカー、問屋、高級食料・食品店の顧問にも就いていた。海外視察は280回以上に上る。主な著書は「日本の食品工業」(共著)、「新・一般食品入門」、「惣菜食品の強化技術」、「食材の基礎知識」など多数。

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