清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

植物性プロテインを使った肉と水産物代替品

アメリカにおける食品の傾向Ⅲ

吉田隆夫
JTCインターナショナル社長 吉田隆夫

2022年03月01日

植物性プロテインを使った肉と水産物代替品

 前回はプロテイン入りの食品について書いたが、我々が食するプロテインは最近まで動物性プロテインが中心で生産されていた。動物性プロテインは家畜の飼育、それから生産される家畜肉製品や乳製品がこの200年以上も主流であった。最近の研究では家畜農業が大きな問題を抱えていることが示されている。ある研究によると、アメリカで牛肉1kgを生産するのに、15,455リットルの水、6.5kgの飼料用穀類、330平方メートルの土地が必要で、16.4kgの炭酸ガスが廃棄される。またプロテインの1kcalを生産するには約40kcalの石油エネルギーが必要であると言われている*。
 その中でも今回は、植物性プロテインを使った製品でのアメリカでの最近の動きを紹介してみよう。

はじめに

 最近よく使われる言葉のSDGs(エスディージーズ)がある。SDGsは国連で2015年に将来にかけて地球上の人びとの平和と繁栄のためのブループリントとして2030までの15年間で世界で環境問題、貧困、紛争、人権問題、感染症などの様々な課題を解決するための達成できる17の維持できる開発目標を決めたもので、世界の大きな動きとして世界各国でその目標に向かって努力がされている。

 食品産業ではそうしたSDGsの課題である気候変動については、畜産からの地球温暖化ガス発生、大量な水の必要性、農地や放牧場の拡大による森林の伐採などや、世界の人口増加でさらに深刻化する飢餓についての対応が求められている。

 こうした畜産への認識の変化は、食品業界に大きな変化をもたらしてきている。日本でも最近しばしばニュースになる植物性プロテインを使った肉代替え製品や乳製品代替え製品がアメリカでは非常に大きな動きとして起こっている。さらに動物からの細胞培養による肉、鶏肉、水産物などの製造、菌を利用したプロテインの製造などが、現在急速に研究開発されている。

植物性プロテイン

ソイプロテイン

 植物性プロテイン製品は1970年代からヴィーガンやベジタリアンのための食品として存在した。それらは自然食品店の冷凍庫に並んでいて一般消費者はほとんど買わなかった。それは特別な人を対象とした製品でもあったし、味や食感などはひどいものが多かったからである。

 それを変えたのがBeyond Meat社とImpossible Foods社である。この背景には有機自然食品業界の躍進があった。1990年代の後半から伸び始めた有機自然食品業界は、1997年では有機食品は全体の1%以下であったのが、2020年には食品全体の売り上げの6%まで増えた。

 この有機食品の増加とともに伸びてきたのが自然食品で、それまでマイノリティーであったヴィーガンやベジタリアンの食が見直され、一般の消費者もヴィーガン、ベジタリアン食品を試す人が増えていっていた。

 それは上に述べたような肉製品の生産での環境問題などが指摘されて、それが一般の消費者にもそうした知識が広まり、肉代替製品を試す人が増えていっていったためである。

代替肉の誕生

 2012年の有機自然食品の展示会で初めてBeyond Meat社が豆たんぱくを使った肉代替ハンバーガーを発表し、その味が非常に本物のハンバーガーに近いものを作り出して、肉代替製品に対する関心が高まった。

 さらに2016年にImposssible Foods社が肉に含まれるヘモグロビンを大豆から抽出する技術を開発し、それを使って肉汁のような赤い汁が出て、さらに味も肉ような味を出す肉代替ハンバーガーをレストランで提供しだし、今までのおいしくない肉代替製品のイメージを変えた。

 この2社の製品が市場で売れ出すと、それまで代替製品を出していた会社も製品の改良をしだし、次第に肉代替製品の品質は良くなっていった。

 植物性代替肉製品や細胞培養肉、発酵技術を使った食品の協会であるGood Food Institute(GFI)によると、植物性肉代替製品は植物性肉代替製品の生産の環境へのインパクトは、畜製品に比べて、水の使用は72〜99%少なく、土地の使用は47〜99%少なく、水の汚染は51〜91%少なく温暖化ガスの排出は30〜90%少なく、環境問題に大きな寄与ができるとしている。さらに、抗生物質ホルモンの使用を減らし、抗生物質耐性菌の発生問題の解決にも寄与することができる。

 環境問題への消費者の意識が最近高くなってきており、植物性肉代替製品の環境への負荷が少なくなることを考えて、こうした製品を食べる人が増えていることも後押しをしている。

植物性プロテインと地球環境保護がもたらす消費者意識

 Hartman Groupの調査によると、スーパーで”Plant Based”と表示した製品を探すとした消費者は48%で、植物性プロテイン製品を探すとして消費者は31%もいるとしている。

 それに対してなんでも食べる人は43%で、肉が好きでしょっちゅう食べるという人は23%、基本的には植物性食品を食べるが時々肉を食べるというフレキシタリアンは10%、牛肉豚肉は食べないが鶏肉、ターキー肉、魚は食べるとする人たちは9%、卵や乳製品を食べるベジタリアンは6%で、まったく動物性の食品を食べないヴィーガンは4%である**。

 このように植物性代替製品の消費が高まってきており、その開発を可能にしているのは、この分野への大きな投資である。

 現在の畜産がこれ以上拡大には限度があり、世界のプロテイン市場の拡大を考え、将来の畜産がこの植物性肉代替製品に置き換わることが予想されることから、アメリカでは多くのビリオネアや投資会社、さらには製肉会社までもが投資をしており、2010年から2019年の10年間で22億ドルが投資されている。

 そして2020年ではアメリカの植物性肉代替製品の市場は70億ドルであったとされている。2020年のGFIのデータではアメリカだけで約250社がこの植物性肉、乳代替製品で競争しており、世界では約900社があるとしている。

 このなかで今回はカテゴリーでわけた会社とその代表的な製品を紹介してみる。

肉代替製品

 このカテゴリーでは上にも書いたBeyond Meat社とImmpossible Foods社が含まれるが、これまでにも日本でもニュースにしばしば取り上げられているので、ここでは取り上げない。

 この2社に刺激されて以前からベジタリアン、ヴィーガンを対象にしていた製品を出していた企業で、製品の質を上げて、この2社に対向しようとしているのが、Lightlife社、Gardein社、Tofurky社、Morning Star Farms社などである。

Lightlife社の代替肉商品

Lightlife社のハンバーガーパティ、Plant-Based Burgers
画像引用元:Lightlife公式サイト(https://lightlife.com/)

 1979年からテンペを販売し始め、今では多くの製品を出しているLightlife社は、挽肉、ソーセージ、鶏肉、ハンバーガー、ホットドッグなどの代替製品、さらに植物性のベーコンを使った朝食用メニュー製品にテンベも出している。

 この会社のハンバーガーパティ”Plant-Based Burgers”は大豆を使わず、エンドウ豆プロテイン、カノーラ油、ココナッツ油、天然フレーバー、(2%以下)修飾セルロース(植物繊維から)、海塩、酢、粉末ビーツ(色素)、とうきび砂糖、粉末チェリー(色維持のため)で、すべて天然成分を使っていることを強調している。

 昔は大豆プロテインを使っていたが、Beyond Meat社がエンドウ豆プロテイン(米プロテインも使っている)を使って出したので、同じようにエンドウ豆プロテインを使って処方を変えたようである。

Gardein社の代替肉製品

現在はConAgraの部門になった、Ultimate Plant-Based Burgersと、Be’f Burger
画像引用元:Gardein公式サイト(https://www.gardein.com/)

 Gardein社は最初はカナダのシェフが作った会社であるが、現在はConAgraの部門になっており、代替ハンバーガー・パティをエンドウ豆プロテインと小麦プロテイン(グルテン)を使った“Ultimate Plant-Based Burgers”(写真左)と、大豆たんぱくと小麦プロテイン(グルテン)を使った“Be’f Burger”(写真右)を出している。

 さらに代替挽肉を使ってミートボール製品やソーセージ製品など数多くの製品を出している。代替鶏肉製品では小麦グルテン、大豆プロテイン、エンドウ豆プロテインを使って種々のフライ製品やメニュー製品を出している。

 さらにこの会社は大豆プロテインで作った魚の代替製品“f'sh filets”、”mini cr’b cakes”や、代替肉を使った種々のメニュー製品や缶詰製品ジャーキー製品など非常に多くの製品を出している。

Tofurky社の代替肉製品

Tofurky社のPlant-Based Deli Slices Smoked Ham Style
画像引用元:Tofurky公式サイト(https://tofurky.com/)

 Tofurky社は1980年にテンペを売り出し、その後、豆腐を基にして肉代替製品を作りだした会社で、現在では、”Plant-Based Deli Slices Smoked Ham Style”(写真4)のようなデリ肉代替製品、ソーセージ代替製品、鶏肉代替製品、ハンバーガー代替製品など種々の製品を出している。

 現在はKelloggの一部門であるMorning Star Farms社も1975年からベジタリアン、ヴィーガンのために植物性の肉代替製品を出しており、現在では植物性のハンバーガー・パティ、ソーセージ・パティ、ホットドッグ、ポップコーン・チキンなどの製品を出している。

 ハンバーガー・パティはグルテンと大豆プロテインを使い”Morning Star Farms”ブランドで出していたが、それに加えて最近には、”Incogmeato”ブランドで新しい処方で“Burger Patties"や代替鶏肉、代替ポーク製品を出している。

 これらも大豆プロテインとグルテンを使っているが、処方はかなり異なる。おそらく、”Moming Star Farms”ブランドはベジタリアン、ヴィーガンによく知られたブランドであるので、フレキシタリアンや最近植物性食品を食べるようになった人達に新しい”Incogmeato”ブランドで出して、その売り上げを伸ばそうとする試みのようである。

 こうした既存の植物性肉代替製品を出している会社以外にも、この市場が拡大していることから、この数年新規に参入する会社が増えた。さらに、これまで畜肉を使った製品を出していた会社が植物性代替製品を出す会社も多くなった。

Simulate社の代替鶏肉製品

Simulate社のナゲット、Nuggs
画像引用元:Simulate公式サイト(https://simulate.com/)

 ユニークな会社としては、ニューヨークにあるSimulate社で、”Nuggs”ブランドの代替鶏肉製品(ナゲッツとディスク(パティ))だけを出しており、その処方にはこんにゃく粉、エンドウ豆プロテイン、乾燥海草、活性グルテンを使って作っており、鶏肉に一番近いものであるとしている。この会社の創始者は15歳で起業してSNSのアプリケーションの会社を作り、それを売却してこの会社を作っている。

Hooray Foods社の植物性のベーコン

Hooray Foods社の植物性のベーコン
画像引用元:Hooray Foods公式サイト(https://www.hoorayfoods.com/)

 Hooray Foods社は植物性のベーコンをレストランに販売している会社で、使っている成分は、ココナッツ油、米粉、タピオカスターチ、液体スモーク(フレーバー)、うまみ香辛料(シイタケマッシュルーム、塩、マッシュルームエキス、炭酸カルシウム)、メープルシロップ、塩、濃縮ビーツジュースである。

 マッシュルームなどの菌を使って肉代替え製品を作っている会社も増えてきた。植物性ではないが、菌を使ったプロテインを使った肉代替製品も増えてきた。

 最初に出した会社はイギリスの会社Quom社で、フサリウム菌から作ったマイコプロテインを使ってかなり前から肉代替製品を多く出しており、アメリカでは2002年から販売されている。現在では代替肉を使ってメニュー製品など、多くの製品を出している。

PrimeRoots社の麹菌を使ったベーコン代替製品

PrimeRoots社のベーコン代替製品
画像引用元:PrimeRoots公式インスタグラム(https://www.instagram.com/primeroots/)

 カリフォルニア州バークレーにあるPrimeRoots社は麹菌を使ってベーコン代替製品をレストランに提供しており、さらに他の肉代替製品の開発を進めている。このベーコン代替製品の成分は、麹、水、ココナッツ油、こんにゃく、イースト、植物油、米、天然フレーバー、ヒマワリレシチン、天然色素、水酸化ナトリウム、塩である。

The Better Meat社の肉代替商品

 同じくカリフォルニア州サクラメントにあるスタートアップのThe Better Meat社は、菌(何かは明らかにしていない)からのマイコプロテイン”Rhiza”を作り出し、肉代替製品の会社に提供しようとしている。その他、イギリスなどでマイコプロテインを使った肉代替製品を開発している会社が数社ある。

 肉代替製品の会社では、自社の代替肉を使ってメニュー製品やミール製品を出す会社が増えてきている。

水産物の代替製品

 アメリカでは以前は海岸に近い地方では水産物の消費が多かったが、最近は内陸地方でも水産物の消費も増えている。そうした中で水産物の過剰捕獲による水産資源の減少が世界的に言われており、植物性の畜肉代替製品の発達は水産物の代替製品にまで広がってきている。このカテゴリーの製品を作る会社は比較的新しい会社が多い。

Sophi's Kitchen社の魚の代替製品

Sophi's Kitchen社のVegan Fish Fillet
画像引用元:Sophi's Kitchen公式サイト(https://www.sophieskitchen.com/)

 Sophi's Kitchen社は2011年創設の会社で、”Vegan Fish Fillet”、”Breaded Vegan Shrimp”、”Vegan Smoked Salmon”、その他ツナ缶、クラブケーキ代替製品を出している。

 魚の代替製品は、テキスチャー植物プロテイン(エンドウ豆プロテイン、エンドウ豆スターチ)、米フレーク(玄米から)、粉末こんにゃく、粉末海草から作っている。エビは、米フレーク(玄米から)、ポテトスターチ、粉末こんにゃく、エンドウ豆スターチから作っている。

Good Catch社の魚の代替製品

Good Catch社のPlant-Based Tuna
画像引用元:Good Catch公式サイト(https://goodcatchfoods.com/)

 Good Catch社は”Plant-Based Tuna”のツナ代替え製品を出しているが、最近ではサケカニ、魚の代替製品も出している。”Plant-Based Tuna”は自社の植物性プロテイン・ブレンド(単離エンドウ豆プロテイン、濃縮大豆プロテイン、粉末ひよこ豆、ソラマメ・プロテイン、レンチルプロテイン、単離大豆たんぱく、粉末ネービービーンズ)を使っている。

最後に

 その他、Ocean Hugger Foods社、Aquaculture Foods社などが新しい技術で水産物の代替製品を開発している。上にあるようにGardein社やQuam社のように、肉代替製品を出している会社が、水産物の代替製品を作る会社も増えている。

(参考文献)
*)Energy Flow、Environmental and Ethical Implications for Meat Production(ECCP Project Working Group 13 Report、UNESCO 2010)
**)Hartman Group Health&Weliness:Reimaging Well Being Amid Covid-19 Report 2021

この記事を書いた方

吉田隆夫

この記事を書いた方

JTCインターナショナル社長吉田隆夫

アメリカのフロリダ大学の分子進化研究所で2年間研究、さらにシラキュース大学で後にノーベル賞受賞された根岸英一先生の教室で2年間有機金属化学を研究し、IFF社の研究所で約11年間香料の研究。その後、カーリンフード社(後にブンゲ社)に5年勤務、独立して食品産業のコンサルタントを30年以上続けている。アメリカ食品産業研究会、e-食安全研究会、クリエイティブ食品開発技術者協会を設立し、その活動をしている。

http://www.e-syoku-anzen.com/

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