清田ダイアリー KIYOTA DIARY
不況時の戦略キーワード “経費をかけずに変化を生み出す” その3容量戦略
食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気
2017年04月01日
食品の使われ方が変わる、ターゲットが変わることによって、容量を増減。それにより、同じ味なのに売上が急激にアップすることがあります。商品と生活者のベストな関係を観察するところから始まる不況時の商品開発の手法のひとつが「容量戦略」です。
大容量化で割安感
プリマハムが2015年末に発売したソーセージ「香薫あらびきポーク大袋」が順調に売れています。香薫は同社の主力ブランドですが、足元では販売の伸びに陰りが見られていました。ただ、テコ入れをするにもブランドを守るためには、大きく味を変えるわけにもいかず、かつ味を改良するにしても限界があります。そこで目を付けたのが大容量化です。食の傾向は個食と大容量タイプの二極化が進んでいると推測し、通常の7パッケージ分をひとつの袋に収めた「大袋」を発売。価格を、1パッケージ当たりの単価で比べると2割強も安くしました。袋にジッパーを取り付け、保存しやすくしたことも奏功し、売り上げはそれまでの4倍に急伸したそうです。

適量化でプレミアム感
容量戦略で話題になったのが、キユーピーのドレッシングです。2009年、キユーピーは、ドレッシングの容量を、それまでの200mlから170mlの小容量サイズに変更しました。核家族化、家族の個食化、サラダメニューの多様化に伴い、家庭内のドレッシングの保有本数が増え、1本を使い切るまでの日数が年々長くなっていました。キユーピーは、ドレッシングに関して、開封後1か月以内に食べ切ることを勧めています。一方生活者からは、鮮度が落ちる、使い切る前に賞味期限を迎えるなどの苦情が多かったようで、そんな声に対応した戦略です。
ドレッシング1ml当たりの価格は変わらないのですが、容量が少なくなった分、本体価格は安くなります。1家庭1種類ではなくなっているドレッシングの家庭市場において、1本分の単価が安くなったことで、複数の種類を買いやすくなり、しかも鮮度がよい、おいしい期間内に食べ切れるという点がお得感に繋がりました。
この年、FOREVER21やH&M、GUなど、「安いのは当たり前。それに加えて品質もいい」というアパレルのファストファッションが流行りました。このような “ファストプレミアム” 的商品の食品版がキユーピーのドレッシングだったのです。容量を減らしてその分価格を下げることで、値ごろ感が生まれ、しかも、新鮮なうちに使い切れるという、新たな価値が生まれました。つまり、容量と価格をうまく調整することで、プレミアム感に繋げたということです。
この容量戦略が奏功し、売り上げは前年同月比で2倍以上に。現在は150mlまで小容量化が進んでいます。

食シーンに合わせて細分化
ポテトチップスに代表されるじゃが芋系スナックも、容量戦略を上手に展開しています。当初は、90gが主流でしたが、1人で食べるには大き過ぎたり、カロリーが気になったりと、それまでのレギュラーサイズだけでは不満を持つ生活者が増えました。そこで、少しだけ食べたいときの小容量タイプ、パーティのような場面で利用しやすい大袋タイプと、さまざまな容量の商品を必要に応じて選択できるようにしたことで、市場規模は拡大しました。現在ではなんと、28g、60g、85g、135g、170g、500gと揃っています。

節約市場の容量戦略。キーワードは “小ぶリッチ”
その他、男性がコンビニでスイーツを買うようになって、男のプリン、男のアイスというキーワードと共に大容量のスイーツが、ヨーグルトにフロストシュガーの代わりにジャムを入れる生活者が増えて大容量のジャムが開発され、反対に、高齢世帯、単身世帯の増加や、食卓に上る回数が少なくなったことで、サラダ油やカレールウ、みそやしょうゆなどの調味料は小容量化しています。
高齢化が進む今後は、容量やサイズを単に小さくするのではなく、その分、満足度を高めた商品「小ぶリッチ」な商品が求められるでしょう。先に紹介したキユーピーのドレッシングのように、小容量化によって、いつもフレッシュなドレッシングを使うことに、主婦が「小さなリッチ感」を感じ、かつ1ml当たりの価格は同じですから、容量が少なくなった分価格が下がり、値下がりしたような感覚で、買いやすくなります。コンビニのオリジナルスイーツも同様です。自分ご褒美は、小さいけれどおいしさがギュッと詰まった高級感のあるテイストが求められます。
不況はもとより、少子高齢化、共働き世帯の増加など、ライフスタイルの変化によっても、生活者が商品に対して求める “ちょうどいい” サイズや量は変わります。このような流れの中、今後ますます容量戦略は重要になり、特に節約志向が続けば、日常の中にハレ感を求める生活者の “小ぶリッチ” 商品へのニーズは、不変のキーワードになるかもしれません。

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この記事を書いた方
この記事を書いた方
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子
加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。
http://himeko.co.jp/