清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

2022食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2022年02月01日

2022食市場のトレンド予測「HITキーワードBest10」

 新型コロナウイルスで幕を開けた2021年が終わり、2022年はオミクロン株で始まりました。未だ終息が見えない新型コロナウイルスと新しい変異株。日本の場合、海外の国々に比べると、まだまだ重篤な事態にはなっていませんが、それでも生活者の心に不安の影を落としていることに変わりはありません。ただ年末年始の街を見ると、どこに行っても賑わっていて、withコロナが常態化しているのを感じたこともまた事実です。マスクと消毒が日常化している日本においては、だれもが気を付けているだろうという信頼感と安心感が強く、ウイルスに対する危機感も大分薄まってきているように感じました。
 まだまだ予断を許さない状況の中、食業界の皆さん、「今年はどうなるの?」と例年以上に情報に飢え、トレンドを気にしていらっしゃいます。そこで今年も昨年に引き続き、ひめこカンパニーが提案する「2022年食市場のトレンド予測」をご紹介しましょう。

食のトレンド予想HITキーワードBEST10

1位「家事ファスティング」

 新型コロナウイルス禍の巣ごもり生活で、生活者は家事の大変さを改めて実感。賢く家事を断つ ”家事ファスティング” のニーズが高まっています。家事代行サービスの新規利用者が増加。また、家事を家電に任せたいと思う人も増えていて、米を自動発注する機能を備えた炊飯器など、スマート家電も続々と登場しています。
 一方、食関連企業は、 ”家事をしない” 提案を打ち出しています。例えば、オイシックス・ラ・大地は、家事代行サービスを展開するべアーズと「#家事休み」をキーワードにした事業で協業を始めています。取り組みの第1弾として、家事に関する調査を実施した結果、食事作りの負担が大きい30代以上の女性からは、調理し続けることへのストレスがみられ、パートナーの家事参加が求められているという結果が出ました。こうした中、手軽に調理ができるミールキットの利用意向は女性全体で70%に上っています。

オイシックス・ラ・大地×ベアーズ
画像引用元:PR TIMES オイシックス・ラ・大地×ベアーズ

 そんな「家事疲れ」の背景を受けて売れているのが鍋つゆです。鍋は昔、家庭の ”ごちそうメニュー” でした。がその後、献立を考えなくていい、冷蔵庫にある野菜でできる、後片付けが楽といった理由から、手抜きしたいときの ”冬メニュー” になり、それがコロナ禍では、夏も鍋がラクでいいと ”何も作りたくない日の通年メニュー” として人気になっています。さらに肉と白菜、肉とねぎなど、食品メーカーの ”1肉+1野菜” の提案が奏功し、さらに簡単にできるメニューのイメージが強くなっています。

2位「0.5手間」

 コロナ禍で凝った料理をする人が増えましたが、2年が過ぎた今は、頑張らない手作り感が人気です。生活者が ”ちょっとした” 手間を掛けて完成させる商品が増えています。必要なのが、最後の ”ひと手間” にも満たない ”0.5手間” なのが特徴です。生活者が面倒と感じるほどの作業はなしに、「自分が作った」という達成感や満足感が得られるのが人気の秘密です。個人のセンスやオリジナリティを発揮する余地もある点が、SNSに写真を投稿して個性をアピールしたい若者にも刺さっているようです。
 例えば、北海道・札幌のヌクメルがオンラインで販売をしている、温めて食べる冷凍チーズケーキ「Nukmel(ヌクメル)」。お客様に自分で ”ぬくめる” ひと手間をかけてもらうことで、最高の状態で楽しんでいただけるといいます。
 コロナ禍の巣ごもり生活で、ぬか漬けに挑戦してみたものの「面倒」「管理が分からない」などの理由で挫折する人も少なくないようです。そんな中、チューブタイプやシート状のぬか床が登場しています。いずれも、野菜に密着させて冷蔵庫で寝かせるだけ。まさに0.5手間のぬか漬けです。

アイメックス「CHO美活ぬかどこ」
画像引用元:PR TIMES アイメックス「CHO美活ぬかどこ」

 ぬか漬けよりレベルが高い、みそを手作りする人も増えました。オイシックスの「手作りみそセット」は、例年の3倍の予約があったといいます。作り立てのみそを味わいたいと思う一方、大豆から作るのは面倒と感じる生活者もいます。そこで登場したのが、みそを”作る”のではなく、 ”育てる” という企画です。ひかり味噌の ”みその発酵・熟成による変化を自宅で体験できる” 「育てる味噌」企画です。これから発酵・熟成する酵母菌が生きたままの「子どもの味噌」が自宅に届きます。それを専用容器に詰め替えて名前を付け、育っていくみその、色と味わいをSNSに投稿するというイベント的な企画になっています。

ひかり味噌「育てる味噌」企画
画像引用元:PR TIMES ひかり味噌「育てる味噌」企画

3位「偏愛消費」

 若い世代を中心に広がっている「推し活(おしかつ)」。好きなアイドルやアニメ、ゲームやスポーツチームを熱烈に応援する活動のことです。また愛する猫のために、猫と一緒に暮らすのに適した家具を揃えたり、AIを使ってペットの行動や食事、睡眠までもチェックして健康管理を図ったりする愛猫家や愛犬家も増えています。ある対象を熱狂的に愛し、こだわり、それに関するものなら何でも購入するー。そんな「偏愛消費」の傾向が最近目立ちます。
 食市場でも、 ”推し” の対象として人気のアイドルやアニメとコラボした販促を企画したり、ウイスキーや日本酒など、もともとこだわりたい生活者が多いものに関しては、さらに ”好き心” を刺激する仕掛けを作ったりなど、「偏愛消費」を利用した活動が活発化しています。

東洋製罐グループ「推し飯缶」
画像引用元:PR TIMES 東洋製罐グループ「推し飯缶」

4位「セレンディピティ消費」

 新型コロナウイルス禍で自由な外出が制限されたことから、人やモノとの思いがけない出会い ”セレンディビティ” を求める声が高まっています。特に、消費の主役として台頭しつつある世代は、押し付けの広告などを嫌うとされる半面、「偶然の出会いを楽しみたい」という意識が強く、 ”意外性” や ”偶然性” は消費における重要なキーワードになっています。手元に届くまで何が送られてくるか分からないサブスクリプションサービスや、おみくじ形式で ”運命の日本酒” との出会いを演出するイベントなどが注目されました。生活者がセレンディビティを通して ”自分らしさ” を表現したり、 ”自分だけの正解” と感じたりできるよう、いかに ”偶然という名の必然” を提供できるかが企業の腕の見せ所になりそうです。

5位「サーキュラーフード」

 フードロス削減の動きが活発化する中、最近は、廃棄物をただ ”なくす” のではなく、資源として活用する ”サーキュラーエコノミー(循環型経済)” を意識した取り組みが広がっています。その中から生まれてきたのが、「サーキュラーフード」です。渋谷肥料は、渋谷近辺の飲食店などで捨てられた生ごみで ”たい肥” を作り、それを利用してハーブを栽培。そのハーブで ”渋谷コーラ” を開発しました。徳島大学発フードテックベンチャー、グリラスは、フードロスを活用して育てた食用コオロギを使ったクッキーを発売しています。

グリラス「「C. TRIA」
画像引用元:PR TIMES グリラス「「C. TRIA」
グリラス「「C. TRIA」
画像引用元:PR TIMES グリラス「「C. TRIA」

 9月には、農林水産省が主導し、産学官が参画する「フードテック官民協議会」に、「サーキュラーフード推進ワーキングチーム」が加わりました。サーキュラーフード市場の創出と拡大によってフードロス削減を目指すとしていて、今後ますます「サーキュラーフード」への関心は高まりそうです。

6位「日本テロワール」

 サステナブルへの関心が高まり、産地や生育環境などを明確にした商品が増えています。多摩川で繋がれた奥多摩と江戸との関係性を再現しているという、東京の森林をボタニカルに使用したクラフトジンや、原料の生産から加工、販売までを特定の地域のみで手掛けるクラフトポテトチップス、地域の食文化に特化した食材、特産品を取り入れたスターバックスの「47JIMOTOフラペチーノ」などは、日本産でありながら単に国産と表示されたものとは異なるストーリーを秘めています。

スターバックス コーヒー ジャパン 「47JIMOTOフラペチーノ®」
画像引用元:PR TIMES スターバックス コーヒー ジャパン 「47JIMOTOフラペチーノ®」

 作り手のこだわりや技術、産地の特性をより濃く表現したことで、地ビールがクラフトビールへと深化したように、その土地が醸す空気感、土壌の特長、生活文化といった個性を表現した「日本テロワール」という概念が定着するかもしれません。

 その他Z世代を惹き付ける ”昭和レトロ” は、現代のフィルターを通して「クール昭和」に進化。昔懐かしい駄菓子をプラントベースに生まれ変わらせたおやつシリーズなどが登場していますし、技術発展や5Gの普及により開発が進みそうなのは、人間の感覚と科学を掛け合わせた「五感テック」商品や、VRやARを使って ”空間” と一緒に食事をデリバリーする「テレポート食」。他方、月経や妊娠などに関する女性特有の悩みをテクノロジーで解決する ”フェムテック” も徐々に浸透していて、今後、食と組み合わせた取り組みが広がりをみせるでしょう。

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

当サイトでは、利便性向上を目的にCookie等によりアクセスデータを取得し利用しています。
詳しくは、プライバシーポリシーをご覧ください。