清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

心が動くか否か! キーワードは「エモ消費」

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2025年11月10日

心が動くか否か! キーワードは「エモ消費」

 先行き不安と物価高で消費に積極的ではないとき、生活者へのアプローチにおいて重要になるキーワードが「エモ消費(エモーショナル消費)」です。「エモ消費」とは、モノやコトは手段でしかなく、それを通じて得られる ‟精神価値” の方に重心を置いた消費スタイルを指します。元来、生活者がモノやコトを求める時、そこにはエモーショナル(感情的・情緒的)な理由があるはず。それが、特に明確化しているということです。

貢献と共感が心を打つ

 心に響くアプローチが奏功している事例が、昨年4月に発売されたキリンビールの「晴れ風」と、1977年生まれの古参、サッポロビールの「黒ラベル」です。新旧ブランドが20~30代を中心とした新世代に刺さりヒットしています。
 「晴れ風」は、ビールの素材や味、企業ブランドとは関係のないネーミングだったこと、パッケージの色にZ世代に人気の “ターコイズブルー” を採用したことなどのほか、パッケージに好きな自治体の花火大会や桜の保全への寄付ができるQRコードを付けたことも大きく影響しています。 “無理のない範囲で何かの誰かの力になりたい” と思う若者の関心を惹き付けました。

晴れ風
画像引用元:PR TIMES キリンビール「晴れ風」

 一方、「黒ラベル」は王道の若者戦略を展開。CM「大人エレベーター」で若い世代が憧れる人物の “人生指南” を伝えてきたほか、ロックフェスティバルの協賛やSNS映えのする公式バーの運営などが若者たちの共感を生み、ここ10年で、20代の顧客数を60%近く増やしました。

サッポロ生ビール黒ラベル/大人に☆乾杯。
画像引用元:PR TIMES サッポロビール「サッポロ生ビール黒ラベル/大人に☆乾杯。」

 コカ・コーラシステムは、「紅茶花伝」のブランドメッセージ “小さいって、偉大。” を体感できるブランド史上初の展示会「小さなやさしさ展」を「六本木ヒルズカフェ」で開催しました。朝日新聞に掲載された記事の中から、普段は見過ごしてしまうような小さなやさしさにまつわるエピソードを収集。小さなやさしさが集まることで、誰かの大きな心地良さを生むことができる “小さいって、偉大。” を実感できるような空間として、厳選したエピソードや、その内容を表現したミニチュア作品を展示しました。

紅茶花伝/大!小さなやさしさ展
画像引用元:PR TIMES コカ・コーラシステム「紅茶花伝/大!小さなやさしさ展」

 また六甲バターは、「Q・B・Bチーズデザート6P」の発売15周年を記念し、平成のミリオンソングである広瀬香美氏の「ロマンスの神様」に合わせた恋愛ドラマ「1ピースの、しあわせ」を3部構成で制作。2024年12/20~25年3/19、YouTubeにて公開しました。
 頑張る女性が仕事の合間にほっとひと息つきたい時、頼りになる先輩とのさまざまな展開に、「チーズデザート6P」が寄り添うことで、2人が感じる “1ピースの、しあわせ” を表現しています。

QBBチーズデザート6P/1ピースの、しあわせ
画像引用元:PR TIMES 六甲バター「QBBチーズデザート6P/1ピースの、しあわせ」

ストーリー展開が親近感と愛着を生む

 商品そのものを、あるいは商品の歴史を、開発背景を、物語で綴る―。そんな展開が増えています。背景には、「エモ消費」があります。
 生活者は、商品と一緒に心が動くストーリーを求めていて、ストーリーを知ることで商品への親近感や愛着を増し、ファンになることを望んでいると言っても過言ではありません。
 ヨックモックは、冬限定商品「ショコラ シガール」のリニューアル発売を記念し、特設サイトおよびヨックモック公式X(エックス)にて、 “飾らないキモチと、ごいっしょに。” を順次公開しています。人気漫画家3名が描き下ろした3つのオリジナルストーリーを通じて、あらゆる家族の形の中で「ショコラ シガール」が紡ぐ心の交流を届けます。
 創業以来育んできた “幅広い世代から愛される親しみやすさ” を活かし、「ショコラ シガール」で家族や大切な人に飾らない気持ちを伝えるシーンを提案します。

ショコラ シガール/飾らないキモチと、ごいっしょに。
画像引用元:PR TIMES ヨックモック「ショコラ シガール/飾らないキモチと、ごいっしょに。」

 企業がどんな思いで商品を開発し、それを元に、どんな風に社会に貢献しようとしているのかなど、そのストーリーを生活者に届けることもファン作りには欠かせません。
 明治は「きのこの山」ブランドの原点である “里山” を守り続けるための活動をスタートします。「きのこの山」は発売当時、ほっとひと息つける菓子本来の魅力を届けたいという想いから、多くの人が幼少期に体験する日本の自然や里山の風景をモチーフに誕生しました。
 以来、兄弟ブランド「たけのこの里」と共に、半世紀にわたり、一番のアイデンティティである商品名へ “里山” の文字を使用してきました。里山は、 自然資源を育み、生物多様性を守るなど重要な役割を持っているものの、さまざまな原因により、その豊かさが失われつつあります。そんな里山をこれからも守り続けるために、里山の大切さを伝える啓発活動を計画しました。
  “きのこの山たけのこの里サステナブル宣言” として公開。里山での自然遊びや地域の食材を使ったカレー作りに挑戦するイベントなどによる楽しい “里山体験” の提供、里山を感じる木を再利用して制作した特製スリーブケースといったノベルティグッズのプレゼントなどを行っていく計画です。

きのこの山たけのこの里サステナブル宣言
画像引用元:PR TIMES 明治「きのこの山たけのこの里サステナブル宣言」

「利他」の気持ちが消費を促す

 「利他」とは、自分が何らかの損をしても他者に利益を与えるという、「承認欲求」「達成欲求」と並ぶ人間の本能のひとつです。「推し活」全盛の今、まさに生活者の消費行動を促す最強の潜在的欲求と言えるかもしれません。それは、地球環境にも、恵まれない人々にも同じ強さで思いを寄せる「エモ消費」でもあります。
 一般社団法人ロングスプーン協会が2021年に始めた「フードリボン」活動が広がっています。飲食店やコンビニで300円を寄付するとリボンが店に掲示され、家庭事情などで食事ができない子どもの無料食事券になるシステムで、飲食店が子ども食堂の仕組みとして行うプロジェクトです。
 食事は各店が用意しますが、採算を取るのは難しいため、メニューをシンプルにするなどの工夫を凝らしているようです。活動に参加する兵庫県の「ローソン宝塚市役所前店」では、中学生以下の子どもなら、リボンを使って消費期限が近づき値下げシールが貼られた弁当やおにぎりなどと交換が可能で、1ヵ月に約180食の利用があるといいます。同店のオーナーは「対象を絞らないことで、本当に困っている子が引け目を感じず、利用できる。フードロスをなくす意味でもメリットがある」と話します。

フードリボンプロジェクト
画像引用元:PR TIMES ロングスプーン協会「フードリボンプロジェクト」
フードリボンプロジェクト
画像引用元:PR TIMES ロングスプーン協会「フードリボンプロジェクト」

エモ消費が支える?「SDGs」

 「SDGs(エスディージーズ) = 持続可能な開発目標」です。2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標に向けて、政府、自治体、企業にとって、事業展開のコンセプトのひとつになっています。
 「生活者のサステナブル購買行動調査2024」の結果では、SDGsの認知率は51.7%。初回の19年調査に比べると5倍以上になりました。特に学校教育でSDGsを学ぶ機会が多い10代では認知率が74.4%と高く、全体でも「内容は知らないが名前を聞いたことがある」まで含めれば8割を超えています。「売り上げの一部が環境や社会のために寄付される商品を買う」は41.4%と23年から3ポイント上昇。10、20代の若年層ではおよそ5割に上っています。
 「買い物をする際、その商品が環境や社会に与える影響をどの程度意識して買い物をしているか(社会購買)」を10段階で聞いたところ、回答者の平均値は24年は5.12点と前年から微減。一方で、購買に限らず、リサイクルやボランティアなど「環境や社会のためになる行動をどの程度行っているか(社会行動)」は平均値が5.28点と過去最高でした。サステナブルな商品をできるだけ買いたい気持ちはあるものの、財布の状況が厳しいと感じる生活者を動かすためには、少しでも手に取りやすい価格設定、価格アップを受容できる付加価値の提示、また購買以外でも社会・環境貢献の機会提供などを行うことが有効のようです。

水面と葉っぱの画像

お得なエコロジー活動「安エコ」

 そこで求められるのが「安エコ」。 “エコだけど安い” 。できる範囲で環境に、人によいことをしたいと思う生活者は着実に増えています。賞味期限が近い商品や規格外の食品などを安く売り、小売業や飲食店の食品廃棄を減らすアプリの普及が進んでいます。
 これまでは衛生観念の厳しさや食べ物を譲り受けることを恥じる文化が障壁となっていましたが、新型コロナ禍以降、足元の物価高で利用者が増え始めました。賞味期限が近い食品や、規格外品の果物や魚、米などがラインアップされ、食品を配送するアプリが多い中で、利用者がパン屋や飲食店に食品を直接取りに行く方式も採用されるなど、いろいろなアプリが生まれていて、いずれも利用者が急増しています。エコアプリのひとつ「TABETE(タベテ)」は、スマートロッカーを手掛ける「SPACER(スペースアール)」と連携し、駅のロッカーで消費期限の近い食品が購入できるサービスの実証実験を、東京都と埼玉県の19駅、大阪府内の5駅で開始しています。
 売り上げの一部を環境保護団体などに寄付したり、利用者は、フードロスの削減量と寄付額の累計を見ることもできたり。定価よりも2~5割安く買えるため、食費を抑える狙いで使い始める人も多いようです。

スマートロッカー
画像引用元:PR TIMES TABETE×SPACER「スマートロッカー」

付加価値の高い
食品・製品を開発します

清田産業では、メニュー、レシピ、調理方法、試作など、ご提案から開発までワンストップで対応します。豊富な経験と研究開発実績から、付加価値の高い製品開発を実現します。

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    10,000種類以上

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    課題解決

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    掛け算のアイデアと
    開発力

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この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

http://himeko.co.jp/

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