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清田ダイアリー KIYOTA DIARY

にがい味の話(その1)

苦味がもたらす言葉の表現と代表的な食べ物

飯沼宗和
岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授 飯沼宗和

2008年06月01日

にがい味の話(その1)

 今までの人生の中で、何回か苦い経験や苦渋の色を隠しきれないような苦しみや悩みを持たれた方もおられましょう。若い方ですとこれから先、長い人生の中で辛苦を味わい、辛酸をなめたり、つらく厳しい経験をなされる方もおられるでしょう。人生は悲喜交交(こもごも)、禍福は糾(あざな)える縄の如しとも喩えられます。対峙する両極端の中を偏らずに生きることを、苦味と甘味に託してお話しいたします。

味覚から伝わる言葉としての表現

 私たちの感ずる味覚では、甘味に対比する味は苦味のようです。心地よい甘味は、「甘い言葉、甘い巣」として使われて、実質が伴わない表面上の魅力を警告したり、その注意を喚起する表現です。一方、切れ味の鋭い苦味は、「苦言、良薬口に苦し」に見られように、内面的にそして究極的にはヒトに何か役に立ちそうな本質をついています。

甘味に対する「苦味」のギリシャ語表現

乾燥された甘草

 科学用語はラテン系やギリシャ系の言葉から派生しています。外来語で「ズルシ、サッカロ」と言ったら「甘味、砂糖」の意味を表わしています。人工甘味料として以前使われた、ズルチンやサッカリンに代表されます。

 終戦後、砂糖に代表される甘味が不足し、サッカリンはアイスキャンデーやアイスボンボンに使われていましたが、食べ終わった後の形容しがたい不快な味は未だに思い出します。生薬の甘草(カンゾウ)の属名(グリチルリーザ)は「砂糖のように甘い根茎」の意味があります。種名に用いられる「ズルシ」も甘い味を表し、葉や根に甘味があることを示しています。

 最近、「ズルシ」を店名の冠に付けたケーキ屋さん、お菓子屋さんや喫茶店が見受けられます。ほのぼのとした甘さが漂っていて、紅茶やコーヒーをついつい飲みたくなりそうな名前です。

 一方、「苦い」は「ピクロ」です。内面性を表現する言葉であるが故に、余り馴染みがありませんが、苦い化合物や苦い植物の命名には広く使われています。苦味の話は続きます。

苦味を持つ食べ物

ニガウリ

 ニガウリ(ツルレイシ)を栽培する風景は、以前に比べ東海地方でも多く見受けられます。比較的容易に栽培できるそうです。沖縄では野菜妙め、ゴーヤーチャンプルーが有名です。未熟果を豆腐と一緒に油で妙めたり、三杯酢や漬け物としても食します。夏バテに効く健康野菜、ダイエット食品としても知られています。

 中南米では、バルサミーナの名称で血糖値降下作用(果実)、抗腫瘍作用(種子)を目的として広く民間で利用されています。本来バルサミーナは鳳仙花の意味ですが、いつツルレイシに転用されたかはわかりません。アジア原産の貴重な野菜であり、中南米の各地で珍重され生活にも密着して用いられたため、数多くの地方名があります。

 エクアドルで出版された手元の本によると実に41種の呼名があります。果実以外では、乾燥した地上部を薬用として、強壮、風邪の治療、痛風リューマチ、産後の肥立ち、駆虫、皮膚病、腎結石、避妊など多くの用途で使われており、その抽出液は既に商品化されています。別名、万能薬とも言われています。

 フィリピンでも糖尿病の重要な予防薬の一つです。日本では糖尿病予防効果が言われ、その成分と抗糖尿病活性について研究が行われました。予想に反し苦味成分には活性が認められず、無味成分が活性と関係しているとの報告を聞きました。

 完熟した果実の種子を包む果肉は鮮やかな赤色です。外側の苦味とは反対に強い甘味があります。実際味わってみますと、砂糖よりかなり強いカで質の異なった甘味です。

甘味を持つ食べ物

ラカンカ

 ツルレイシと同じ仲間(共にウリ科植物)に中国の羅漢果(ラカンカ)があります。砂糖の300倍の甘味があり、新鮮なラカンカは後味もよく、清涼飲料として利用されています。ラカンカの甘味の成分とツルレイシの苦味の成分とは構造的に極めて近い関係にあります。トリテルペノイドといわれている成分です。

 その構造の一部が変換することにより、甘味になったり苦味にも、そして無味にもなります。以下の内容は類推に過ぎませんが、ツルレイシの果肉には苦味から甘味に変換される成分も含まれていて、成長過程で順次甘味が増していくのではないでしょうか。種子の成長の前半では確実に摂食阻害物質として、種子を守る苦味の物質となります。

 やがて成長し熟すると、種子を伝播してくれる草食動物や小鳥を誘惑するような贈り物に変化して、甘味になるのです。種子を有効に遠くに撒布する植物の自然のなりわいです。ニガウリの特有の苦味のもとは? ある説明書にはキニーネ成分が含まれているとの解説がありますが、明らかに間違いです。

 ニガウリの属しているウリ科にはキニーネなどのアルカロイドが含まれていることはこれまで知られていません。

この記事を書いた方

飯沼宗和

この記事を書いた方

岐阜薬科大学名誉教授岐阜医療科学大学客員教授飯沼宗和

1947年松本市生まれ。薬学博士。1974年岐阜薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。1980年薬学博士取得(岐阜薬科大学)。1974年岐阜薬科大学助手、2002年教授となり、39年間にわたり専門の生薬学を中心に教育研究に携わる。1998年から4年間岐阜県に出向し、保健環境研究所所長を歴任。研究分野は民族伝承薬物の科学的根拠に基づく医薬品、健康食品、化粧品の研究開発。