清田産業株式会社

清田ダイアリー KIYOTA DIARY

フードテックの進化で変わる未来の食市場

食のトレンドが映し出す生活者マインドと時代の空気

山下智子
株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授 山下智子

2022年05月01日

フードテックの進化で変わる未来の食市場

 私が毎年3月に発表する、その年の食市場のトレンドを表わすキーワードの相関図(http://himeko.co.jp/trendy/)。36挙げたキーワードの中に、「X-Tech(クロステック)」「冷食エコノミー」「五感テック」「食×メタバース」「テレポート食」の5つのフードテック関連のキーワードを入れました。テクノロジーはすさまじい速さで進化していて、それは食市場も例外ではありません。

X-Tech(クロステック)

 テクノロジーとは、科学技術のこと。「X-Tech」は、既存の業界のビジネスと、AIやビッグデータ、IoTといった先進的なテクノロジーを結びつけて生まれた、新たな製品やサービス、またはその取り組みを指します。「冷食エコノミー」を拡大させる要因となった「急速冷凍技術」、「五感テック」や「メタバース」も、すべて「X-Tech」です。新型コロナウイルス発生後、食関連の「X-Tech」が急速に発展していて、それは新しい生活様式と無関係ではありません。

テクノロジーイメージ

冷食エコノミー

 新型コロナウイルス下の巣ごもり需要で冷凍食品の人気が高まり、冷凍食品専用の冷凍庫を購入する家庭も増えています。消費の拡大だけでなく、冷凍技術、販売方法、冷凍食品のジャンルなど、冷凍食品を取り巻く市場がさまざまな面で、かつてないほど活気を帯びています。
 長引く在宅生活で、冷凍食品の価値が見直され市場が拡大。20代の利用が伸びる中、食品メーカーや外食大手は大容量商品や飲食店の味を家庭で楽しめる商品など、新商品を相次ぎ投入しています。

 一方スーパー各社は、冷凍食品の品揃えを拡充しています。イオンリテールは、全店舗の9割に当たる約350店で肉や魚の冷凍食品の品目と売り場を約1.5倍に広げ、大型店では最大1,000品目の冷凍食品を扱っています。高い鮮度を保つため、専用の真空包装機も約150店で導入しました。生鮮品だけではありません。冷凍のミールキットや惣菜にも注力していて、ロイヤルホールディングスと組んで、 ”トップバリュ” から ”ロイヤル主席料理長監修” と銘打った冷凍ドリアやグラタンなど4品目を発売しました。1食分で550〜650円(税込)と価格は高めですが、売れ行きは好調と言います。

冷凍食品を買う女性

 冷凍食品の売り上げを支えているのは、おいしさに不可欠な冷凍技術の進化です。特殊冷凍ソリューション事業を展開しているデイブレイク(東京・品川)は、特殊冷凍機の需要が急増していることを受け、特殊冷凍機・特殊冷凍食材のショールームをリニューアルオープンしました。特殊冷凍とは、冷凍媒体ごとに特殊な技術を用いて急速冷凍を可能にし、従来を上回る高品質な冷凍食材を生み出す技術のことです。国内最大級の敷地面積を誇るショールームには、複数の特殊冷凍機と特殊冷凍食材を展示し、でき立ての料理を冷凍したり、特殊冷凍食材のレシピ開発をしたりできるキッチンラボを用意。最先端冷凍ソリューションの発信拠点として、アフターコロナを見据えた、新しい外食ビジネスを提案することを目指しています。

画像引用元:PR TIMES 「デイブレイク」

五感テック

 「五感情報通信」は、総務省を挙げての注目ワードです。私は、「五感テック」というキーワードを付けました。視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚といった五感に代表される、人間の感覚全体を情報通信の対象にするもので、この実現により、従来の音声や画像に加え、触感や味、匂いなどの感覚を相手との間で交換・共有することが可能になり、遠く離れた人とも食を媒介にして対面と同じような、より自然で現実感のあるコミュニケーションが可能になります。

 味や匂いの成分をデータに変換して再現する技術開発が進んでいます。明治大学の宮下芳明教授は、味を感じるディスプレーの開発に取り組んでいます。再現したい食品や飲料の味を数値化できるセンサーで分析し、甘み、酸味、苦味、塩味、うま味の5つに分けてそれぞれの強さを電気信号に変換します。信号を基に微弱な電気を棒状の機器に流し、この機器を舌に当てることで味を感じる仕組みです。この技術を使えば、特定の味を忠実に何度でも再現でき、実際は食べていない離れた人と同じ味を共有することも可能ではないかと期待されています。

 宮下教授は「将来、味を共有するSNSや味を感じる広告も実現できる」と予測しています。現在、ディスプレーに繋いだ機器に舌を当てると、画面に表示された食べ物の味を瞬時に感じることができる試作機を開発中で、テレビに機器を内蔵すれば、グルメ番組を見ながら味見をすることも可能になります。企業との連携を模索して2030年頃の実用化を目指しています。

TTTV / 味わうテレビ
画像引用元:PR TIMES 「TTTV / 味わうテレビ」

 またキリンホールディングスは、食べ物の塩味の濃さを加減できる箸などの食器を開発しています。持ち手と舌に触れた部分から流した電気で、塩味の基となる塩化ナトリウムが持つイオンの動きを調整。疑似的に味を濃くしたり薄くしたりできるといいます。電源の小型化などの課題を解決し、こちらは、数年以内の実用化を目指しています。

キリンホールディング「味を調整できる食器」
画像引用元:PR TIMES キリンホールディング「味を調整できる食器」

食×メタバース

 「メタバース」とは、メタ(meta=超越した)、ユニバース(universe=宇宙)を組み合わせた造語で、仮想空間の中でさまざまな活動ができるようになる技術のことです。ゲームやSNSの世界では、限定的な形ではありますが、既にメタバースを取り入れたものがあります。最近は、この技術をさまざまな形でビジネスに取り入れようとする動きが広がっています。
 「五感テック」の急速な発達によって、この流れは食市場にも確実に広がります。凸版印刷は、 ”メタバース市場” の拡大を見据え、仮想空間上に作ったショッピングモールで買い物ができるスマホアプリ「メタバ」の提供を始めました。メタバの特徴は、ショッピングモールのように複数のバーチャル店舗を巡って買い物ができる点です。アバター同士が、チャットや音声通話でやり取りができ、遠くにいる家族や友人と、仮想空間で一緒に買い物が楽しめます。

凸版印刷「メタパ」
画像引用元:PR TIMES 凸版印刷「メタパ」

 調査会社のガートナージャパン(東京・港)は、「メタバースはデジタル通貨などによって実現される新たなデジタル・エコノミーになる」と予想。2026年までに人々の25%が仕事や買い物、教育、エンターテーメントなどのために1日1時間以上をメタバースで過ごすようになると予測しています。
 そして、メタバースに欠かせないのが、デジタル資産 ”NFT(非代替性トークン)” です。NFTとは、ネット上のデジタルデータをブロックチェーン技術を活用して管理し、出所や来歴を明らかにすることで ”唯一無二のモノ” と証明する技術のことです。これまでデジタルデータは、コピーや改ざんをされるリスクがあって、価値が認められにくかったのですが、NFTのおかげで希少なモノとして売買されるようになりました。転売されるたびに、著作者に報酬が支払われるような設定をデータに組み込めるのも特徴で、これによって転売が後押しされるようになったことも、NFT市場が活性化する一因となっています。当初はアート作品などの取引が多かったのですが、最近は活用の幅が広がり、食の世界でも利用される例が増えてきました。

 ファン作りのためのマーケティング手段としてNFTに注目している飲食店があります。東京・渋谷の「鮨 渡利」は、店の宣伝をかねて板前の包丁捌きを映した動画をNFTにした ”SUSHI TOP SHOT” を販売。今年初めにはNFT化された ”電子マグロ” の初競りオークションを行い、メタバースで実況中継をして話題になりました。実店舗では、これらのNFTの売り上げに応じてネタのグレードが上がる食べ放題イベントを企画しています。仮想とリアルにNFTの仕組みを合わせた展開は、ファンを作りたい飲食店にとってはとても魅力的な試みで、今後もトライする飲食店が増えると思います。

鮨 渡利
画像引用元:PR TIMES 「鮨 渡利」

テレポート食

 瞬間移動を意味する言葉、「テレポーテーション」から名付けました。昨年は、「仮想レストラン」というキーワードを挙げました。ARやVRの技術を使って、家に居ながらにして、飲食店で食事をしているかのような気分を味わえたり、飲食店で提供されるエンターテーメントを楽しめたりするサービスが登場しました。今後5Gエリアが広がれば、「テレポート食」が当たり前に楽しめるようになると思います。
 大英博物館のラムセス2世像の前で「フィッシュ&チップス」をつまんだり、アマゾンの奥地で「アリゲーターのフライ」にかぶりついたり、月のクレーターの中でバーベキューを楽しんだり。仮想空間でアバターが食事をする。五感テックによってリアルで味も匂いも楽しめる。メニューはNFT化され、お気に入りのメニューを所有でき、売買もできる。本当の意味での「メタバース」と「五感テック」を掛け合わせたところにある「テレポート食」。完璧なサービスとして提供されるのはまだまだ先ですが、必ずやってくる ”未来の食のひとつのカタチ”です。

この記事を書いた方

山下智子

この記事を書いた方

株式会社ひめこカンパニー代表取締役女子栄養大学客員教授山下智子

加工食品や飲料の商品開発、コンビニやデパ地下の惣菜開発、飲食店のトータルプロデュース、スーパーマーケットの戦略作り等、食業界および流通業界全般に渡り幅広く活動。外食、中食、内食、そのすべてを網羅する広いビジネス範囲は業界屈指です。1アカウント3,300円で購読できる「食のトレンド情報Web」を配信。毎春、その年の食市場のトレンドをまとめた相関図を公表、講演をしています。

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