清田ダイアリー KIYOTA DIARY
乳の健康機能に魅せられて(発酵乳製品(ヨーグルト等)及び乳酸菌の健康機能)
食品の健康機能に魅せられて
2026年06月01日
目次
はじめに
発酵乳製品、とりわけヨーグルトは、古来より摂取されてきた食品であり、近年ではその健康機能が科学的に注目されている。ヨーグルトは主に国際的には、FAO(国連食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)の国際食品規格委員会で定義されたLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusおよびStreptococcus salivarius subsp. thermophilusにより発酵されているが、近年ではLactobacillus属やBifidobacterium属などのプロバイオティクスを添加した機能性ヨーグルトも広く普及している(1)。
日本でも乳等省令により様々な製品が登場している。これらの微生物を活用したヨーグルトは単なる栄養供給にとどまらず、宿主の生理機能に積極的に作用する点が特徴である。さらに、次世代シーケンス(遺伝子DNAの塩基配列解読)技術の発展により、腸内細菌叢(gut microbiota)とヒト健康の関連が精緻に解析されるようになり、発酵乳製品の意義は「腸内エコシステムを制御する食品」として再評価されている。特に、生活習慣病や免疫疾患、神経疾患との関連が注目されており、食品科学と医学の融合領域として研究が急速に進展している。
[1]発酵乳製品とプロバイオティクスの定義
プロバイオティクスは「十分量を摂取した際に宿主に有益な健康効果をもたらす生きた微生物」と定義される(FAO/WHO)。ヨーグルトはこれらの微生物を効率的に体内へ送達する食品媒体として優れており、胃酸や胆汁に対する耐性を高める役割を持つ。
乳酸菌は乳糖を基質として乳酸を産生し、腸内pHを低下させることで病原菌の増殖を抑制する。また、酢酸やプロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を介して腸上皮細胞のエネルギー供給や免疫調節に寄与する。さらに、乳酸菌はバクテリオシンなどの抗菌物質を産生し、腸内微生物間の競争において優位性を示す。加えて、近年では「ポストバイオティクス(菌体成分や代謝産物)」の概念も提唱されており、死菌であっても寿命延長や免疫調節作用などを持つことが報告されている。したがって、発酵乳製品の機能は単に生菌の作用だけでなく、菌体、発酵生成物や生体成分などとの複合的な生理活性因子によって構成されると考えられる。

[2]腸内環境改善作用
ヨーグルトおよび乳酸菌の最も確立された機能は、腸内環境の改善である。ヒト介入試験において、ビフィズス菌含有ヨーグルトの摂取により糞便中のビフィズス菌数が増加し、排便頻度および便性状の改善が認められている(2)。その作用機序は多岐にわたる。第一に、乳酸菌は腸管内で増殖し、pH低下を介して病原性細菌(例:Clostridium difficile)の増殖を抑制する。第二に、腸上皮細胞間の結合を強化し、腸管バリア機能を改善する。第三に、樹状細胞やマクロファージを介した免疫応答の調節により、慢性炎症の抑制に寄与する。また、腸内細菌叢の多様性維持も重要な要素であり、プロバイオティクスは腸内細菌叢のバランスを是正し、炎症の抑制や腸管バリア機能の強化に寄与することが報告されている(3)。特に抗生物質投与後の腸内環境回復において、プロバイオティクスの有効性が報告されている。さらに、乳酸菌は病原菌との競合、抗菌物質の産生、免疫調節など複数のメカニズムにより腸内環境を改善する(4)。
[3]乳糖不耐症の改善

乳糖不耐症は乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性低下により引き起こされるが、ヨーグルトはこの症状の軽減に有効であることが知られている。Lactobacillus acidophilusおよびBifidobacteriumを含むヨーグルトの摂取により、水素呼気試験値の低下および腹部膨満感の軽減が報告されている(5)。
乳酸菌はβ-ガラクトシダーゼ活性を有し、消化管内で乳糖分解を補助するため、乳糖の未消化による浸透圧性下痢やガス産生を抑制する(6)。さらに、ヨーグルトは固形に近い食品であるため胃排出速度が遅く、小腸での乳糖分解がより効率的に行われる点も重要である。このように、ヨーグルトは乳糖不耐症患者における「耐容可能な乳製品」として位置づけられており、栄養補給源としても有用である。
[4]免疫調節作用
発酵乳製品は免疫機能にも影響を及ぼす。ヨーグルトの摂取は自然免疫および獲得免疫の双方に作用し、感染防御能の向上に寄与する可能性がある(7)。その機序としては腸管関連リンパ組織(GALT)の活性化、IgA産生の増加や炎症性サイトカインの抑制が考えられる。これらの作用により、感染症やアレルギー疾患のリスク低減が示唆されている。さらに、一部の乳酸菌株は制御性T細胞(Treg)を誘導し、免疫寛容を促進することが報告されている。これにより、アレルギー疾患や自己免疫疾患の発症リスク低減に寄与する可能性がある。
感染症に関しても、ヨーグルト摂取により上気道感染症の発症頻度が低下するとの報告があり、特に高齢者や免疫低下状態において有益である可能性が示唆されている。
[5]代謝疾患への影響

近年、ヨーグルト摂取と代謝疾患との関連も注目されている。プロバイオティクスヨーグルトの摂取により、体重、BMI、血圧、血中脂質の改善が報告されている(8)。また、ヨーグルト摂取は2型糖尿病発症リスクの低下や体重増加抑制と関連することが疫学研究で示されている(9)。その機序としては、短鎖脂肪酸によるGLP-1分泌促進、インスリン感受性の改善、脂肪蓄積の抑制などが挙げられる。また、腸内細菌叢の変化を介してエネルギー代謝や炎症状態が調節されることも重要である。さらに、プロバイオティクスの摂取により血中LDLコレステロールの低下、内臓脂肪低減効果(10)や血圧の軽減(11)が報告されており、心血管疾患予防の観点からも注目されている。
[6]神経・精神機能への影響(腸脳相関)
近年、「腸脳相関(gut-brain axis)」の概念に基づき、乳酸菌の精神・神経機能への影響が注目されている。腸内細菌は迷走神経、免疫系、内分泌系を介して中枢神経系と双方向に情報交換を行う。一部の乳酸菌はGABAやセロトニン代謝に関与し、不安や抑うつの軽減に寄与する可能性がある。ヒト試験においても、プロバイオティクスヨーグルトの摂取により、心理的疲労やストレスの軽減が示唆されている(12)。また、乳酸菌およびビフィズス菌は神経伝達物質(GABAやセロトニン前駆体)の代謝に関与する可能性があり、抗不安・抗うつ作用が報告されている(3)。また、認知機能や神経変性疾患への影響についても研究が進められているが、現時点ではエビデンスは限定的であり、今後の検証が必要である(13)。
[7]その他の健康機能
発酵乳製品には以下のような多面的効果も報告されている。
(1)抗炎症・抗酸化作用
乳酸菌は活性酸素種の除去や抗酸化酵素の発現誘導を通じて、酸化ストレスの軽減に寄与する。また、慢性炎症の抑制を介して生活習慣病の予防に関与する(3)。
(2)がん予防
疫学研究では、ヨーグルト摂取と大腸がんリスク低下との関連が示唆されている。これは腸内環境の改善、発がん物質の不活化、免疫監視機構の強化などによるものと考えられる。
(3)腎機能・尿毒素低減
一部のビフィズス菌はインドールなどの尿毒素前駆物質の産生を抑制し、慢性腎臓病患者における毒素蓄積の軽減に寄与する可能性がある(14)。
[8]課題
発酵乳製品および乳酸菌の健康機能は多くの研究で示されているが、いくつかの課題も存在する(11,15)。まず、効果は菌株特異的であり、すべての乳酸菌が同様の作用を示すわけではない。また、適切な摂取量や摂取期間についてのコンセンサスが十分ではない。さらに、ヒト試験において結果のばらつきが大きく、個人の腸内細菌叢や遺伝的背景の影響を受ける可能性がある。今後は個別化栄養(precision nutrition)の観点からの研究が重要である。
おわりに
発酵乳製品、とりわけヨーグルトは、腸内環境改善を基盤として、免疫、代謝、神経機能に至るまで多面的な健康効果を有する食品である。乳酸菌およびビフィズス菌は、その中心的役割を担う重要な微生物群である。今後は、菌株レベルでの機能解明やオミクス解析(遺伝子、mRNA、タンパク質、代謝物、成分分析などの解析技術)を活用した統合的研究により、より高機能な発酵乳製品の開発が期待される。また、個人の腸内環境に応じた最適なプロバイオティクスの選択が可能となることで、精密医療・精密栄養の実現に寄与すると考えられる。
参考文献
(1)Sarita, S. et al., Appl. Sci. 14, 11798(2024)
(2)Yashima, T. et al., Biosci. Microflora 16, 73-77(1997)
(3)Li, B. et al., Agric. Prod. Proc. and Storage 1, 17(2025)
(4)Sarita, B. et al., Front. Microbiol. 15, 1487641(2025)
(5)Masoumi et al., Food Sci Nutr. 9, 1704?1711(2021)
(6)Kechagia, M. et al., ISRN Nutrition 1-7, 481651(2013)
(7)Harshendra, G., Int. J. Sci. Res. 12, 2911-2913(2023)
(8)Rezazadeh, L. et al., Inter. Dairy J. 101, 104577(2020)
(9)LeRoy C. et al. BMC Microbiol. 22, 39(2022)
(10)高野義彦, 薬理と治療 41, 895-903(2013)
(11)木下英樹, 日本栄養・食糧学会誌 78, 293-299(2025)
(12)Zhu, J., Microorganisms 11, 1403(2023)
(13)Harsa, H. et al., Front. Nutr. 12:1682419(2025)
(14)Stuivenberg, G. et al. Fermentation 9, 391(2023)
(15)加藤豪人, 腸内細菌学雑誌 33, 175-189(2019)
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この記事を書いた方
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岐阜大学高等研究院 先制食未来研究センター特任教授岐阜大学応用生物科学部名誉教授長岡 利
ペプチド、ポリフェノール、核酸が拓く健康科学の新しい世界の開拓を目指しています。
脂質代謝を改善するペプチドやポリフェノール等に関する研究で論文多数。現在、日本栄養・食糧学会理事、日本ポリフェノール学会理事・編集委員長。
主な受賞歴:文部科学大臣表彰・科学技術賞(研究部門)、安藤百福賞優秀賞、日本栄養食糧学会・学会賞、日本農芸化学会功績賞。
